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「当主である青吉が亡くなってもうすぐ三か月。まさか青吉の遠い親戚に、あやかしを見ることが出来る人間がいるとは思わなかった。半信半疑だったが、こうして言葉を交わせたうえに、相性も良いとは重畳である」
春風と名乗った龍は満足そうにうなずいた。
光もなんとか笑みを浮かべたが、内心複雑だった。
無視したくても干渉してくるあやかしのせいで挙動不審になり、精神的な病だと家族や親戚に厄介者扱いをされてきたのだ。
しかも、誰もやりたがらない看取り屋の後継者候補として強制的に呼び出されて、面倒事を押し付けられる羽目になった。
あやかしと関わる仕事など御免だった。
「よし、採用」
「えぇ!? そんな即決していいんですか?」
「そうか、そちらの自己紹介がまだだったな。名前は」
どこかずれたやり取りに戸惑いながら、光は姿勢を正した。
「水野光、中学三年です。えっと、天色町や看取り屋のことはほとんど知りません。祓い屋とか看取り屋を営む一族にはそれぞれを象徴する色があるから、色の一族と呼ばれているってことぐらいでしょうか……すみません」
「採用。お前は今日から看取り屋、青の一族だ」
「早い! 待ってください、まだ後継者になると決めたわけじゃ……」
「そうだな、お前の意思も大事だ。さあ、立ってくれ」
言われるがままに立ち上がると、春風はその額で光の背中を押した。
背中に伝わる力強く硬い額と体温に、龍神がここに存在しているのだと、今更ながらに感じた。
「春風様、一体どこへ?」
「この屋敷の中でもっとも素晴らしい場所だ。そのあとは自由に見て回れ。部屋も好きに使えばいい。判断はそれからでも遅くはなかろう」
「は、はい」
ぐいぐいと背中を押されながら、滑るように廊下を進む。
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