第一話 看取り屋・青の一族

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「ここなら、嘘つき呼ばわりされずにすむかもしれないけど、誰かの看取りなんて」  光は上着をすり抜ける肌寒さを紛らわすように、布越しに腕をさすった。  本日何度目かになるため息をついて、何となく春風が向かった方向へ歩き出す。 「母さんを看取ってあげられなかった俺には、荷が重いな……どうやって断ろう」  重石のように圧し掛かる悩みを抱えながら、広い屋敷を見て回っていると、右手側の襖越しに嬉しそうな声が聞こえた。  春風かと思ったが、それにしては随分とはしゃいだ声だ。 「他に誰かいたのかな」  後ろめたく思いながら、襖の隙間から中を覗くと、そこには部屋の中をぐるぐると泳ぐ春風の姿があった。 「ぃよっしゃあ! やった、やったぞ青吉! ついに見つけた! 俺天才か!」  有頂天で泳ぎまわる春風の変貌ぶりに、光は困惑を隠せない。  むしろ、こちらが素の春風なのだろう。 「ようやく跡継ぎを見つけた! まだまだ幼いが真っ直ぐな少年で、名前は水野光。きっときみも気に入るだろう!」  春風は、箪笥の上に飾られた写真立てに話しかけている。  遠目からは判然としないが、恐らく当主の青吉なのだろう。 「光がいることをもっと早くに知っていれば、きみに会わせることができたのにな。そうすれば、きみは安心して旅立てたのに……遅くなってごめんな、青吉」  光は音を立てずに、その場を離れた。  どくどく、と鼓動が速くなる。火照った頬を冷やしてくれる冬の風が気持ち良かった。  陰で「気味が悪い。関わるな」などと散々言われてきたが、あれほど好意的に存在を受け入れてくれたのは初めてで、目の奥が熱くなる。
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