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「俺のことを待っていてくれた人たちが、ここにはいたんだ」
断る口実を探していた罪悪感に胸が苦しくなる。
もう少し早く、彼らが後継者を探していることを知っていたら、青吉にも出会えたのだろうか。
「会って話してみたかったな」
光は最初に案内された中庭とは反対側の場所へ来ていた。
そこには、物干し竿に青い布が所狭しと並べられていて、吹き抜ける風に押されて波のように揺れていた。
天色町では、それぞれ象徴する色の布が注連縄の代わりとなる、と駅前のパンフレットに書いてあった気がする。
「ごめんください」
玄関の方から男性の声が聞こえた。
光は、自分が行く必要はないものの、気になって玄関へと向かった。
引き戸を開けて入って来ていたのは、無地の白い着物に白い羽織姿の集団だった。
「ん? もしかして、看取り中でございましたかな。依頼者の方ですか」
異様な光景に圧倒されている光に、先頭に立つ男が声をかけた。
眉間に深い皺を刻んだ五十代くらいの男だ。
上から下へと品定めするように見つめられて、光は後退りした。
「いえ、俺は」
「何の用だ、白雲」
光を庇うようにして現れた春風は、全身にまとった鋭い冷気で突然の来訪者を歓迎していた。
白雲と呼ばれた男は眉ひとつ動かさず、薄い笑みを浮かべて頭を下げた。
「おぉ、春風様。今日も変わらずお美しいお姿でございます」
「世辞はいい。どうせこの土地を奪い取りに来たのだろう」
驚いて白雲を見た光に、白雲は困ったように眉を垂れて微笑んだ。
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