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「いやいや、まさか。ただ私は、後継者のいないこの看取り屋を空き家にしてしまうのは心苦しいと思っているだけです。ですから、我ら白の一族がこの屋敷を引き継いで、春風様とこの土地を守りたいと考えているだけでございます」
光の脳内に、パンフレットの説明が浮かび上がる。
白の一族とは、天色町を代表する祓い屋の内のひとつで、色の一族のまとめ役とも言われている名家だ。
白雲の言葉に、春風はふっと吐息のような笑みを零した。
「後継者探しの期限は青吉が亡くなってから一年以内。まだ期限内だが」
「相続には時間がかかりますからな、こういう話は早く済ませるに限りますよ。それに、龍神と相性の良い者は滅多に見つからぬと……失礼」
鼻で笑う白雲に、事情を深く知らない光でも神経を逆撫でされたような不快感を覚えた。
しかし、当事者である春風は平静そのものだ。
「どんな理由を持ち出そうが、お前はただ白の一族本家へ対抗するための土地や資金が欲しいだけだ。青の一族が保管しているものは、かなりの金になるそうだからな。白の一族の白羽家を名乗ってはいても、金に困っているお前にはこれほど魅力的な宝はないだろう」
白雲の顔が屈辱で歪むよりも先に、春風の瞳に怒りが走った。
深い海のような瞳に、嵐のような光が渦巻いて、春風を中心にして強風が吹き荒れる。
今更のように思い知らされた。
光の目の前にいるのは、美しい龍神。今まで出会ってきたあやかしとは格が違う。
「厚顔無恥も甚だしい。お前は誰と話をしている」
大自然の脅威を目の当たりにしたような迫力に、白雲は顔面蒼白となるが、それでも震える足を一歩踏み出したのは、引けぬ事情がある証拠だろう。
「し、しかし! このままでは看取り屋は廃業となる! それは春風様も困るのでしょう? 今まで守ってきた住処を見ず知らずの人間に奪われるのは惜しいはず。ここが欲しいのは私だけではない。これを機に京都の祓い屋も進出してくるかもしれません。ぜひ私に管理を任せられよ、決して悪いようにはいたしません」
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