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金の話を持ち出してから、白雲の焦りが嫌と言うほど伝わってきた。
怯みながらも、目的の物に手が届きそうだとわかって、口調も強気なものに変ってきている。
光は強く拳を握り締めた。
脳裏に、先ほどの春風の姿がよみがえる。
写真立てに語りかける、あの嬉しそうな龍神の姿が。
「後継者がいないのであれば」
「俺が後継者です!」
光は己を鼓舞するように、声を張って白雲を遮った。
張りつめた空気が緩んで、春風が目を瞬かせる。
横槍を入れられた白雲は、驚愕して顔色を変えた。
「失礼、きみは、依頼者ではないのかな」
「俺は青吉さんの親戚で、水野光と申します。あやかしも見えますし、春風様との相性も良いので、これから看取り屋を継ぐことになりました」
「は? いや、しかし」
「言霊使い委員会へはこれから報告する。管理者不在の問題はこれで解決だ。お帰り願おうか」
新たな後継者の登場に、白雲は満面朱を注いで、
「ふざけるな! こんな得体の知れん子供が新しい後継者など信じられん! 龍神との相性が良い人間がそう簡単に見つかるはずがないのだ!」
「お前が納得しようがしまいが、彼が青の名を継ぎ、一族の羽織をまとってしまえば立派な当主だ。お前に口出しされる筋合いはない。早う去ね」
なおも食い下がろうとする白雲だったが、さすがに不利と悟ったか、負けを認めるように踵を返した。
「失礼する!」
白雲の背中から、ゆらゆらと怒りの炎が揺らめいて見えるようだ。
白い羽織の従者たちは、白雲に続いて慌てて去って行った。
「くそったれ! どこの馬の骨ともわからんガキに、青の一族の金を持っていかれてたまるか!」
八つ当たりのように門を何度か蹴りつけて、白雲は肩で息をした。
従者たちが顔を見合わせていると、白雲は何かを思いついたように口の端を吊り上げた。
「まあ、落ち着け。色の一族はあやかしに関わる危険な仕事だ。不幸な事故もままあることだ」
白雲は従者のひとりに持たせていた長方形の木箱を取り上げて、中の物を鷲掴みすると、植え込みの陰に放り投げた。
「白雲様、それは」
引き止めようとした従者を睨んで黙らせ、白雲は満足そうに門を出る。
従者たちもそそくさと屋敷から出て行った。
植え込みの陰で、かさりと葉を揺らす音が鳴った。
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