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「ごめんな、光。考える時間を与えておきながら、後継者になることを強制させてしまった」
客間まで戻ってくると、春風は申し訳なさそうに頭を垂れた。
「謝らないでください、春風様。どうせ俺には行くところもなかったですし、父さんも弟も、俺には出て行ってほしいって思っているだろうから丁度良いというか」
「それは」
「違う、こういうことが言いたかったんじゃなくて……」
光はもどかしそうに言葉を探しながら、
「俺、嬉しかったんです。初めて誰かに必要とされたから。春風様に必要とされて、すごく嬉しかった」
光は緊張で声が震えながらも、真っ直ぐに春風を見つめた。
「だから、これは俺が決めたことなんです!」
誤魔化しのない、素直な気持ちを受け止めた春風は、感に堪えないとばかりにその目を輝かせた。
「光、本当にいいのかい?」
「はい」
光はうなずいたあと、決意したように静かに切り出した。
「春風様、聞いてもらえますか。十年前に、母を亡くした時の話です」
当時のことを思い出して、無意識に呼吸が浅くなった。
後悔と罪悪感で胸を掻きむしりたくなる衝動に襲われながら、光は自分が逃げ出さないように畳を踏み締めた。
「俺が熱を出したので、母は病院に連れて行くために車を運転していました。俺は後部座席で横になっていました」
カーオーディオから母の好きだったバンドの曲が流れていた。光の体調を気遣ってか、いつもよりもずっと控えめに。
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