第一話 看取り屋・青の一族

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第一話 看取り屋・青の一族

 馬に似た顔に、鹿のように立派な二本の角。勇ましい青空色のたてがみ。宙をうねり進む蛇のような長い胴体。  水野光(みずのひかる)の目前には、日本画で見かけるような「龍」に酷似した存在がこちらを見つめていた。 「龍!?」  後ろを通り過ぎた着物姿の女性が振り返る。  光は誤魔化すように、門の両端で揺れている旗に描かれた龍の神紋を眺めた。 「お前が青吉の親戚の水野光か。中へ入って話をしよう」  こちらが返事をする前に、龍は宙をすいすいと泳いで開け放たれた玄関の中へ入って行った。  テレビでしか見たことのない、立派な日本家屋に圧倒されながら、光は恐る恐ると玄関の中へ足を踏み入れる。 「お邪魔します」  脱いだ靴を揃えて、龍に続いて木目の綺麗な廊下を歩く。  客間に通されると、上座へ座るように促されたので、慌てて頭を振った。 「客人はお前だ」  光はなんだか申し訳ない気持ちになりながら、用意されていた青い座布団に正座した。  そこへ宙に浮いたままの龍が向かい合う形になった。  龍は器用に急須の持ち手を咥えると、あらかじめ置いてあった湯呑み茶碗に茶を淹れた。 「私は龍神族の春風。この天色町で、あやかしの看取り屋を営む青の一族の守り神だ」  清浄な水の気配が体の奥を通り抜けて、光は緊張で顔が強張った。  兵庫県内に存在する観光地、「天色町(あまいろちょう)」は昔から祓い屋稼業で栄えた歴史がある。  あやかしを信じる、信じないに関わらず、昔ながらの町並みは人気が高く、神戸に来たならば必ず天色町へ、と当然のごとくツアーに組み込まれるほど知名度も高い。  とは言え、あやかしを見ることができる人間は少数派であり、それを公にして受け入れている天色町は特殊な場所だ。
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