海の掃除屋シーラカンス

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はぁ、またゴミが落ちてきやがったぜ。 俺は空のペットボトルを拾いながら思わずため息を吐く。 なんで、人間らは海を汚すんだろうナァ? 『それは、海の恐ろしさを忘れているからですよ』 そう言ったのは、俺に長年仕えるチョウチンアンコウだ。 思考を読む能力があるから、こうやって話しかけてくる油断ならない奴だ。 『お前は相変わらずだな』と呆れたら、チョウチンアンコウは気にせず話を続ける素振りをみせた。 『ところで』 『なんだ?』 『最近また海が汚れてきているようで。』 『ああ』 『そろそろ海神様が起きてしまいませんか』 そう、それが最近懸念していることだ。 海神様を起こしてしまうと、津波が起きてしまうのだ。 津波は海神様の怒りだからナァ。 だから、俺はちまちまゴミを拾ってるのだ。 『ですが、一度人間たちには”罰”を与える必要があると思うのですが』 またもやチョウチンアンコウは俺の思考を読んで恐ろしいことを言い出す。 だが、それは案外悪くないアイデアかもしれない。 『そうだ、たまには掃除をおやすみなさっては?』 『それはいいな。たまには俺ものんびりするかナァ』 『そうですよ。貴方様は働き過ぎです』とチョウチンアンコウは黒い笑みを浮かべながら言った。 俺もつられて黒い笑みを浮かべた。 その日から我が主はは掃除を休んでいらっしゃる。 昨日は、ポテトチップスの袋と空のペットボトル。 今日は人間の女の死体が流れてきましたが、そのまま放置されています。 よく人間たちは自然災害が起きると『災害に負けない!災害に勝とう!』というけれど、なんておこがましいのでしょう! 自然災害に勝ちも負けもない。 できることは、ただただ目の前で呆然と立ち尽くすことだけですから。 嗚呼!我が主が掃除をしないだけで海は、こんなにも汚れてしまった。 海神様を起こしてしまうのも時間の問題ですね。 久々の休暇だ。ゆっくり昼寝でもするかナァ。 そんなことを考えながら瞼を閉じたら、突然地響きのような音が響き渡った。 ゴゴゴゴ…。 嗚呼、これは完全にお怒りとみた。 とりあえず、海の奴らに避難警報でも出すかナァ。 『こちらシーラカンス。海神様がお怒りだ。今すぐ〇〇まで避難せよ』 ただちにテレパシーを全海に送ったら稚魚どもがワアワア騒いでやらァ。 チッ、仕方ねェ。 『全海の稚魚ども!落ち着いて〇〇までいけ!慌てず押さずに、だ!』 またテレパシーを送る羽目になってしまった。 せっかくの休暇がパァだぜ。はぁ、疲れる。 我が主の呼びかけのおかげで海のほうは死者が1匹も出ませんでした。 そう、海のほうは、ね。 『チョウチンアンコウ』 そう我が主に呼ばれて『はい、なんでございましょう。』と言えば、我が主 はニヤリとしながら『地上の死者は5万人らしいぞ』と仰る。 やれやれ、相も変わらず悪趣味な御方だ。 いえ、これは私に言えたことではありませんね。 『なんだよ。ニヤニヤして気持ちわりぃ』と我が主に気味悪く思われました。 『失礼。そんなにニヤニヤしていましたか』と謝ったら、我が主もニヤニヤしながら『ああ、ニヤニヤしていたぞ』と仰るものですから私もさらにニヤニヤ笑いました。 これで人間たちも海の恐ろしさを分かってくれましたかね。 皆様、もう海神様を怒らせないようにしてくださいね。 じゃないと、また津波が人間たちを飲み込みますから。
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