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「マスターはもうずっとバーテンダーをされてるんですか?」
俺は、興味が湧いてマスターに尋ねてみた。
「ずっとと言われるとなんですが・・・。もうかれこれ15年ほどしていますね」
「このお店は?」
「この店は先代のオーナーから引き継いで、私がするようになって10年ほどになります」
「そうだったんですね。おしゃれで落ち着くお店です」
「ありがとうございます。そう仰っていただくと、有り難いです」
そんな会話をしていたら明石が帰ってきた。
外はもうだいぶ寒くなってきているのか、肩をすくめて身震いしながら帰ってきた。
「田中さん、なんかトラブルがあったみたいで今日来れないって。 この穴埋めは必ずとのことで・・・」
「え?大丈夫なんですかね?」
「ええ、なんか、今日録音予定だったラジオがあったみたいなんですが急遽企画変えて、対応してるって」
「なるほど。
こういう機転が効くのが田中さんですね」
「ほんと、田中さんの頭の回転はすごいですから。俺も見習わなきゃ」
そういって、明石は頭を掻いた。
「明石先生は新しく立ち上げたイベント会社うまくいってますか?」
聞いてみる。
「ええ、お陰様で。まだほんと立ち上げたばっかりで、会社と呼ぶには、ひよっこすぎだけど、MG事務所さんが『探偵Rの苦悩』関係のイベントは全て俺に回してくれているので・・・」
「そうですか。よかった。前、協力すると言ったのは、本当ですから何か有れば、俺に気軽に言ってくださいよ」
「・・・そんな優しこと言われると期待しちゃう・・・」
さっきまでの明石とはキャラが違う。
「え??」
「前言った事、考えて欲しいなぁぁぁ」
なんだか酔ってる感じ??
10月に呼び出されて明石の家に行った時もぐちゃぐちゃに酔っ払って甘えん坊になって俺に告白してきた男だ。
きっと、本当の姿はこっちの甘えたな方なのだろう。
会社を立ち上げてからは仲の良かった俺の前でも、丁寧な言葉遣いになったし、仕事中に甘えた雰囲気なんて全く出さない男だが、酔っ払うと甘えん坊のスイッチが入るようだ。
そしてさっき言われた”前言ったこと” とは、自分と付き合って欲しいと告白してきたことだ。 答えはじっくり考えてからと言われているが正直どうしたらいいかわからない。
もうそのまま2ヶ月が経っている。
遊びなら抱けなくもないが、相手が本気だとわかっているのに手なんか出せない。 しかも仕事仲間だ。
”ピロン”
俺の携帯が鳴った。 Gメールだ。
”よし君、今日、暇?
僕、今日とってもとってもとーっても
会いたい気分なの・・・無理かなぁ?”
この半年お金を払って抱いている、男の子からだ。
この空間にいるのもちょうど、気まずくなってきたところだ・・・。
「明石先生、すいません。ちょっと呼び出し入ってしまって・・・ 田中さんも来れないようなので、失礼してもいいですか?」
「え?ああ・・・そうだね・・・。仕方ないね。またたまには飲みに行こうね」
明石は少し寂しそうに言ったが、俺は気にせず 自分が飲んだ分のお金を置いてバーを出た。
あのままの空気で一緒に飲むなんて勘弁してほしい。
あとはBitterのマスターに任せた方が無難だと思った。
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