うちの魔王さん

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「……ユウマ、です」 『魔王。人々は、私をそう呼んでいる』  そんなお互いの自己紹介から、ふたりの会話は始まった。  そして早々に、ユウマは衝撃の事実を聞かされた。  魔王とエリィ(母)は、恋仲だったのだと。  そして、自分は恐らく、ふたりの間に生まれた子なのだと。  あまりにも荒唐無稽で、(にわか)には信じられないことだった。 「そもそも、どうやってお母さんと恋人になったの」 『私が呼んだのだ。最後の戦い――ちょうど今、お前が私と対峙しているこの状況で、こちらに呼び寄せた』 「なんで、そんなことしたの?」 『愛おしくなったからだ。エリィは、私を深く思いやってくれていた』  母は、物語を進めていく中で、魔王の境遇に思うところがあったようだ。  魔王は、単なる悪意から世界を滅ぼすことを考えたのではなく、理不尽な差別や迫害など、その考えに至るに足る理由があったのだと。――事実、魔王と呼ばれてはいるが魔族ではなく、生まれつき強大な魔力を持っていることと珍しい容姿から、迫害の対象となっていたらしい。  画面の外から聞こえてくる母のその思いの吐露や、見える表情に惹かれたのだと、魔王は言った。 『エリィは驚いていたが、受け入れてくれた。それで私は改心し、彼女と暮らし始めた。だが、半年ほど経った頃、彼女は突然いなくなってしまい……気付いたら、またこうしてここに立っていた』  声は無く文字だけなのに、ユウマには魔王のその言葉が凄く寂しそうに聞こえた。 『しかし、まさか身籠っていたとはな』 「それをまず知らなかったのに、なんで俺が自分の子だってわかるんだよ」 『お前の中には、確かに私を感じる。だから、やはり私との子だろう』  ユウマにとってはなんとも薄いものでしかない根拠でもって、魔王は断言した。  手元の説明書にあるキャラクター紹介ページを見る。ドット絵ではなく、漫画などによくあるタッチで描かれた魔王が載っている。  現実感がなかった。それは、イラストだからとかゲームの登場人物だからとか、そういう理由ももちろんあるが、何よりも大きな原因があった。 「……お母さん、全然お父さんのこと教えてくれなかったんだ」 『ほう』 「どこにいるのって聞いたら、凄く遠い所だって言うし、なんでいないのって聞いたら、自分たちのいる場所に来られないからだって言うし。でも、死んではいないらしいし」 『ふむ』 「それで、おじいちゃんたちと仲が悪くなっちゃったみたいだし。……今は、もうそんなことないけど」 『そうなのか』 「でも……どんな人なのって聞いたら、とても素敵な人だって。そう言ってた」  その言葉には、魔王は相槌を打たなかった。三点リーダーが表示され、無言を表している。 「……あなたは、俺のこと息子だって思ってるみたいだけど、俺はまだ信じられない。お父さんっていうのが、よくわかってないから」 『……そうか』 「だから、まずは友だちになってくれない?」 『なに?』  ユウマは身を乗り出し、画面に収まるドット絵の小さな魔王を見つめる。 「俺、この家に来たばっかりだし、学校も変わるから、こっちではまだ友だちいないんだ。だから、最初の友だちになって」  ユウマの突然の提案に、魔王は驚いているようだった。少なくとも、ユウマにはそう感じられた。 「それに、お母さんの話も聞きたいし。ね?」  魔王は、それを聞くと目を閉じた。  (しば)しの沈黙。  それから魔王は目を開け、そして頷いた。 『……わかった。よろしくな、ユウマ』 「うん、よろしくね。えっと……魔王さん」  こうして、ユウマは自称父親の魔王という友人を()、学校帰りなどに部屋でおしゃべりするのが日課となった。
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