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――1ヶ月後。ユウマは憂鬱な気持ちを抱え、学校にいた。
お知らせのプリントは隠し、意識しないようにしていた。だが、当日が近付いてくると、自分が意識せずとも学校ではどうしても話題に上がってくる。
昨日など、祖父母に知らせていないことに今更ながら罪悪感を覚えてしまい、なかなか寝付けなかった。
一応、保護者が来られないというクラスメイトも数人いるらしい。
しかし、その子たちの親は『来られない』だけであって、『いない』のではない。
自分と同じようでいて同じではないことが、ユウマの心により深く影を落としていた。
「――それでは、授業を始めます。お父さんお母さんたちが見てくれていますが、みんな緊張しないで、いつも通り頑張りましょう!」
スーツ姿でしっかり化粧をした、いつも通りではない先生の言葉に、「はーい」と生徒一同が返事をした。
教室中がそわそわと浮足立っていて、何人かが後ろに並び立つ保護者を気にする素振りをしている。
ユウマの前の席の男子は、堂々と後ろを向き手を振った。後ろの方から小さく、だが慌てた調子で「前を向きなさい」と諭す女性の声がした。
じくじくと、なんとも言えない痛みがユウマの心を刺し続ける。
あと10分……。
ほぼにらめっこしていた時計の針は、ユウマの望む所まであと少しと迫ってきた。
早く過ぎてほしいと思う時ほど時間は長く感じるもので、ユウマは疲弊すら感じていた。
だが、あと少しでこの苦しい時間が終わるのだと思うと、少しだけ気が楽になった。
――その時。
空気が、僅かにさざめいた。
後方の一部で起こったそれは徐々に伝播していき、どこか色めき立っている。
保護者たちの変化を察知した生徒が、何事かと振り向いていく。そして、それと同時に自身も同じ雰囲気にのまれていった。
授業開始頃とは違った落ち着きのなさに、ユウマは時計から目を離す。前席の子の顔が見えた。
「あれ、誰のお父さん……?」
自身をすり抜け、後ろに向かうそのキラキラした視線を追い、ユウマも同様に振り向いた。
ひとりの男性が、ユウマを見ていた。
細身で手足が長く、黒を基調としたシンプルな服装が、その頭身の高さから様になっている。
ユウマは、その姿に見覚えはなかった。だが、その雰囲気と顔立ちにハッとする。
まさか――。
「……魔王さん……?」
ユウマのその声が聞こえたのか、男性――魔王は、少し照れくさそうにしながら、ユウマに向かって小さく手を振った。
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