206人が本棚に入れています
本棚に追加
魅入られて2
「遥、落ち着けって。あんなとこでお前……。悟史との関係がバレるだろ?」
「だってあんなもので……。馬鹿にしてる。悟史が可哀想だ。ううん、俺が殺したようなもんだ。俺さえ道路に出なければ……。俺が……」
「馬鹿。そんな事……言うな」
「どうして……?どうして1人で逝ってしまったの?俺も連れて行ってほしかった。悟史に置いて行かれた俺は……どうしたらいいの?」
遥の震えるか細い背中を弘明が抱きしめた。
「俺はお前が生きててよかった。悟史に……感謝している」
「……え?」
「俺、お前が好きだった。悟史さえ居なければ……なんて本気で思っていた"ずるい男"なんだ。まさかこんな……。本当に居なくなっちまうなんて思ってもいなかった」
【弘明が?俺を……?】
「離……して」
「遥……好きだ」
「離してっ」
遥はその場から飛び出した。靴を履くと外に駆け出す。
「遥っ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『俺、お前が好きだった。悟史さえ居なければ……なんて本気で思っていた"ずるい男"なんだ。まさかこんな……。本当に居なくなっちまうなんて思ってもいなかった』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「信じ……られない。弘明があんな事を」
【俺達の事を1番理解してくれてると思っていたのに……】
目をギュッと瞑り走る遥は不意にドンッと誰かとぶつかった。
「あっ」
遥はそのまま尻もちをつく。
「す……すみませ……」
スッと手を出し、遥の腕を引いて立たせる男ーーー
先程弁護士に封筒を投げつける遥を見ていた男だった。
「お怪我は?」
「い……いえ」
遥は大の大人が涙を流しているなんて……恥ずかしくて顔を伏せ、相手の顔を見ようとしなかった。
「……細いな」
「え……?」
「一真(かずま)さん?」
その時遥は初めて男を見た。
既に男は名前を呼んだ女性の方へ歩き、遥が見たのはその男の後ろ姿だけ。
【喪服を着ていたから悟史の知り合いだろうか?】
「かずま……」
初めて聞く名前だった。
遥は男の背中から目を逸らすとフラフラと歩き出す。一真は再び遥の方を振り返った。
「田崎……」
「はい。何でしょうか?」
「あの青年の素性を調べてくれ。くれぐれも内密に……な」
「はい。分かりました」
【はるか……か。顔に似合った美しい名だ】
「一真さん?もうお焼香は済んだのでしょう?早くこんな陰気臭い服を脱いで食事に行きましょうよ。今日は……そうねぇ。フランス料理がいいわ」
「……あぁ」
「まったく。あの運転手ったらろくな事しないんだから。寝覚め悪いったらないわ。あちらの遺族、お金受け取ったんでしょうね?」
「いえ、突き返されてしまいました」
弁護士がそう言った。
最初のコメントを投稿しよう!