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疑惑
「任せきりにして済まない。すっかり向こうで寝入っていた」
「……そうですか。お疲れなのでしょう。気になさらないで下さい」
社に戻ると田崎が一真にしか出来ない仕事を除いてその他の雑務をこなしていた。
「田崎、もう飯は食べたのか?腹は減ってないか?」
「いえ、まだですが……」
「それなら一息入れてこれを……」
一真が紙袋を揺らした。
「差し入れ……ですか?」
「遥からのな」
「……え?」
一真が紙袋から幾つかのタッパー、そしておにぎりを取り出す。タッパーの上にメモが貼ってあり、遥の字で[ 田崎さんの分]と書いてあった。
「これもお前のだ」
一真が白和えの入った小さいタッパーとラップに巻かれたおにぎりを2つ手渡す。田崎はそれを見た。
おにぎりは俵型なのか3角なのか微妙にいびつなカタチをしている。
しかも大きさはバラバラだ。
そんなおにぎりを見ていると遥の奮闘ぶりが伺えて思わずフッと笑った。
一真がおにぎりを頬張りながらそんな田崎をじっと見る。
「お前のそんな緩んだ顔は初めて見た」
「……緩んでましたか?」
「あぁ。かなり緩んでたぞ?」
「気の所為です。これ……遠慮なく頂きます」
田崎は自分の分を手に取る。
「おっと、それから遥から伝言だ」
「伝言……ですか?」
「そうだ。"昼間はありがとうございました"とな」
「そう……ですか」
そう言って田崎は秘書室に戻って行った。
暫くしてピリピリと一真の携帯が鳴る。画面を見ると香織からだった。
「はい」
『一真さん?一体どこに居るの?』
「どこって……会社に決まっているだろう?残業だ」
『……ここのところ残業続きですのね。本当に残業なのかしら?』
香織の言葉に一真はフゥと溜息をつく。
「何なら会社に掛け直してみろ」
『……』
「お前らしくないな……。俺の行動が気になるとは。とにかく忙しいから……切るぞ?」
香織は目を細める。
【仕事仕事と言いながら"社長付きの秘書"として傍に置いている千葉 遥もその場に居るのでは?】
そう思うとよりいっそう腹立たしい。
『一真さん?お父様の言葉……忘れたわけじゃないわよね?1回きりのSEXくらいで子供なんて早々出来ないわ』
「……分かっている。しかし今夜は帰れそうにない。……今度にしてくれ」
香織は電話を切られ、携帯をベッドに投げつけた。一真はドカッと椅子に座る。
"子作りの為だけのSEX"かーーー
考えるだけで気が滅入った。
香織は再び携帯を拾いあげるとある男に電話をする。相手は隆司というあの男ーーー
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