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素性
「社長、おはようございます」
そう言うと高級車の後部座席のドアを開け、運転手と秘書の田崎が頭を下げた。
「あぁ、おはよう」
神崎一真(かんざきかずま)は車に乗り込んだ。助手席に田崎が乗り込み車は静かに発進する。
座席で一真は目を瞑って足を組んだ。
「社長、そのままお聞き下さい。例の青年の素性を調べました」
「流石に仕事が早いな。田崎」
「恐縮です。名前は千葉 遥(ちば はるか)。25歳」
【千葉 遥……か】
「誕生日は………」
「そんな事は報告書を見る。で、どこに勤めている?」
「それが偶然なのですが、我が社の子会社に勤務しておりました」
「……ほぅ。で?」
「小学生の時に両親が離婚し母方に引き取られ、高校生の時にその母親も癌で亡くしておられます。その後叔母の世話になり、高校を出て直ぐに叔母の家を出て我が社の関連会社に勤務しているようです」
「うちの子会社は"高卒"なんかを入れているのか?」
「ええ。この方が入社される時期はちょうど我が社が急成長する大事な時期で人手が足りずやむなく……」
「……なるほど。続けろ」
「その後どうやら男性の方とその……」
田崎は言いにくそうに口篭る。
「なんだ?」
「個人的なお付き合いがあったようです。その方と少し前に同棲を始めておられますね」
「同……棲?」
「どうやらその方があの……」
「相馬悟史……か」
「……はい」
【なるほど……。それで葬儀の時……】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
『こんなもの……貰ったって悟史は帰って来ないっ。悟史を返して。返してよっ』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【そういう……事か】
「続け……ますか?」
「いや、いい。あとは報告書で確認する」
「はい」
「田崎……」
「は?」
「明日からその千葉 遥を本社勤務になるよう手配を頼む」
「……はい。分かりました。配属部署は……どのように?」
「決まっているだろう?聞くだけ野暮だ」
そう言って田崎を見た。
「分かりました。ではそのように致します」
【千葉 遥か……。面白くなりそうだ】
____________
遥がデスクで休んでいた分の残務処理に追われていると弘明が営業の奴と一緒に打ち合わせで入ってきた。ふと目が合うが思わず遥は目を逸らした。
「どうした?高須」
「……いや、何でも」
弘明は躊躇うように奥の会議室へ入って行った。遥は少しほっとする。
「千葉くん。……ちょっと」
「は、はい」
【部長からの呼び出し?何だろう。俺、何かミスしたかな?】
遥は部長のデスクへ向かった。
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