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辞令
「あの……俺、何か?」
「違う違う。今本社から内示のメールが来てな?お前明日から本社勤務だ。おめでとう」
【本社……勤務?】
「……え?俺が?それも明日からですか?」
【……何で俺?】
「そうだ。急なんだが、それも秘書課だぞ?大出世だなぁ。もしかして本社に知り合いでも居るのか?だったらもっと早く言ってくれれば……」
「秘書?俺が?む、無理です」
【しかも本社に知り合いなんていない。何がそうなって俺なの?】
「何を言ってる。こんないい話はそうそうないぞ?頑張れば社長付きの秘書にだってなれる。向こうへ行っても頑張れよ?」
そう言って部長はガハハと笑い、遥の細い肩をバンッと叩いた。
遥は何が何だか分からなくて部長から届いたというメールを見せてもらう。
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辞 令
千葉 遥
上記の者は6月13日付けにて本社勤務を命ずる。
(なお、配属部署は秘書課)
株式会社 神崎コーポレーション
神崎グループ 代表取締役社長
神崎一真
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「お前の仕事の引き継ぎの件なんだが、今日中に津田に引き継いでおいてくれ」
「……はい」
【今日中か……】
「何で"大卒"の俺達を差し置いて"高卒"のアイツが本社勤務なんだよ」
「何考えてんだ?人事課は」
そんな大卒の奴等の妬みの言葉が遥の耳に入って来た。遥のしていたことなんて大した事ではない。誰でも出来る残務処理。
「ただでさえ悟史の事で頭いっぱいなのに……本社勤務だなんて」
遥はハァと溜息をついた。
____________
次の日、遥は私物の入った小さめのダンボールを抱えて本社の前に立っていた。
建物を見上げると鏡張りの高層ビル。沢山の人々が出入りしている。
遥は何度も社名を確認した。
[ 株式会社 神崎コーポレーション]
ゴクンと生唾を飲む。
「やっぱり……ここだ。間違いない」
遥が神崎の子会社に入社してから7年目ーーー
初めて本社を訪れた。
【子会社と言えど、本社がまさかこんな……大会社だったなんて……】
高卒の遥は第一線で飛び回る大卒の連中の会議の資料作成やコピー等の雑務、苦情処理等を社内に残って、淡々とこなすのが仕事だった。
そのおかげで時々社に打ち合わせに来る悟史と出会えたわけだが……
【そんな俺が……こんな大会社のそれも……何で秘書?】
ますます分からなくなってきた。腕時計を見ると8時15分前ーーー
「ヤバっ。転属初日で遅刻しちゃうよっ」
遥は思い切って本社のビルの中へ入って行った。中に入るとピカピカに磨かれた床に広いエントランス。
待合用のソファもあり小さなカフェまであった。
「凄……」
遥はキョロキョロと見渡しながら受付へ向かった。
受付の女性も綺麗な人で遥は戸惑う。
「あの……おはようございます。私、千葉 遥と申します。今日からこちらの本社勤務に転属になった者ですが……」
「おはようございます。千葉……遥様ですね?失礼ですが配属部署は……」
「えっとあの……ひ……課です」
遥は小さな声で言った。
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