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冷たい視線
「申し訳ございません。もう一度……」
「ひ……秘書課……です」
受付嬢の顔が一瞬「え?」と言う驚きの表情になる。
「秘書……課ですね?只今お調べ致しますのであちらでお待ち願えますか?」
「……はい」
遥は待合スペースのソファに腰を掛けた。受付嬢達が遥の方を見てヒソヒソと何やら話している。
「どう見ても仕事出来そうなタイプじゃないんだけど秘書課だってぇ」
「うっそぉ、何でぇ?」
遥は思わず俯いた。
【全部聞こえてるんですけど……】
でも彼女達がそう思うのも無理はない。遥自身何で自分なのか、それも何故秘書なのか、てんで分からなかった。
「千葉様、お待たせしました」
遥が立ち上がるとエレベーターから1人の男が降りてきた。そして社内用の改札に社員証を読み取らせると受付へ颯爽と歩いて来る。
「千葉……遥さんですね?」
その声に遥が振り返った。
黒髪にオールバック。整った顔立ち、そして知的そうな眼鏡を掛け凛とした男がそこに立っていた。
「はい。千葉 遥です。おはようございます」
そう言うと遥は頭を下げた。受付嬢達は男を見てキャッと憧れの目線を送る。
「おはようございます。私、社長付きの秘書をしております、田崎雅人(たざきまさひと)と申します。千葉君の配属される秘書課の者ですよ?」
【この人が俺の直属の上司……】
「よ……よろしくお願いします」
再び遥は深々と頭を下げた。
「早速案内しましょう。こちらが千葉君の社員証です」
「はい。ありがとうございます」
社員証を受け取ると田崎の後に付いて改札を通り、エレベーターへ向かう。遥もヨタヨタしながら付いていく。それは親鳥について行くカルガモの子供のようで、受付嬢達はクスクスと笑った。
チンとエレベーターは最上階に着く。
【秘書課って最上階なんだ】
「こちらが秘書課です。皆さんに紹介しますね?」
「あ……」
遥が田崎に押されるように中に入ると全員が遥を見た。ほとんどが知的そうな綺麗な女性。
「昨日も話したが代理店から急きょこの秘書課に転属になった千葉 遥君だ。皆よろしく頼む。分からない事があれば教えてあげてくれ」
「おはようございます。ち……千葉 遥です。分からない事だらけですが、どうかよろしくお願いしますっ」
そう言って頭を下げたがシーンとする。遥が上目遣いでチラッと見ると、冷たい視線ーーー
【あまり歓迎されてないなぁ。やっぱそうだよなぁ】
「では挨拶は程々にして千葉君はこちらへ」
「え?」
「千葉君のデスクはこちらですよ?」
「……はぁ」
遥は田崎に黙って着いていく。
【どこ……行くんだ?】
遥は田崎をチラチラ見る。
「あまり人の顔をチラチラ見るのはお止めになった方がいいですよ?感じが悪い」
遥は「ごめんなさい」と下を向く。すると不意に田崎が足を止めた。
ドアには[Secretary's office]とあり中に入ると秘書の立派な机がある。更に奥にドアがあり、そこには[ President's office]と掲げられていた。
【プッ……プレジデントって……】
「あ……あの……ここって。まさか……」
「そのまさかです。さ、こちらへ。社長がお待ちですよ?」
【やっぱり……社長室?】
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