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「なんで? なんで捨てたの?」
バレンタイン当日。いつものように早く登校した愛菜は、前日、友香に手伝ってもらいながら作り上げたチョコレートを、勇人の机に入れた。
机の中のチョコレートを見付けた勇人は、誰が入れたのだろうときょろきろと辺りを見回した後、こっそりとランドセルにしまった。
そのまま帰ってから開けてくれると思っていた愛美は、放課後、勇人が人目を盗んで、愛美のチョコレートをゴミ箱に捨てるところを見てしまった。
「愛美がすごくがんばって作ったのに。ひどいね、勇人って……」
友香にすがって泣きじゃくる愛美をなぐさめながら、友香は密かに『捨てられて、当然じゃん』と思っていた。
机の落書きや紙くずは、愛美にとっては恋のおまじないでも、勇人にとっては、しつこい嫌がらせ。その嫌がらせの相手からと思われる贈り物なんか、怖くて受け取れるわけがない。
「彼、わたしのこと、きらいなのかな?」
ぱっちりとした大きな目が、涙で濡れてきらきら光る。愛美の涙をそっと拭いながら『やっぱり、愛菜はきれいだな』と、友香は思った。
ふわりとゆるくウェーブのかかった長い髪、白い肌、愛らしい顔立ち、小柄な体。色黒でショートヘア、大柄で男っぽいわたしとは正反対。
妬ましいほどきれいな愛美が、直接、勇人に想いを伝えれば、2人はきっと、両想いになるだろうと、友香は思っていた。
だから、愛美に嘘のおまじないを教えた。愛美と勇人を、引き離すために。
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