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『大賢者』の家
王宮から戻り、街の人達に迎え入れられた彼は、部屋の真ん中まで歩くと頭を抱えた。胸ポケットの中から飛び出して、手のひらサイズの小さな姿から、青年の3分の1程度の大きさにアイトールは姿を変えた。
その腕の中には、小さな赤ん坊が抱きかかえられていた。
……勇者は『賢者の元に預けられた子供』として育てている事にしよう、という話になったのだ。
この街で赤ん坊を邪険に扱う者はまずいないし、何かしようとする輩は問答無用で叩き潰して良い。師匠の提案を、ダリオが受け入れたものだった。
「何が『どうしよう』だ、我が弟子よ。やる事は決まっている」
「わ、分かっています……王様にも認めて頂きました」
アイトールの提案はこうだった。
―― 自身が『賢者』を名乗っても良いか王に問い、許可がおりたらそのように過ごす事。
風呂場で飛びあがって一回滑って転んで頭を打ち、大きなたんこぶを作ったものの彼は確かにその通りにした。彼が『森の大賢者』の一番弟子であった事を知る聡明な王は、快くその提案を受け入れた。
師の志を受け継ごうとしているのだ、と考え受け入れてくれるはずだ。
アイトールの考えは見事に的中した。
だが、『森の大賢者』はその功績を忘れない為にも、アイトールの持つものとし、彼は新たな『賢者』となった。
―― 『鬼の賢者』。
オーガ族の中で初めてその地位となる青年へ、王からその功績と栄誉を讃えて贈られた称号ものだった。
それは、アイトールの想像を超えており、ダリオ自身も驚いた。
何故なら、『森の大賢者』を受け継ぐのではなく、新たな称号を与えられた以上、例えアイトールが戻る日が来たとしても、彼もまた賢者として扱われるのである。
師匠である彼はその言葉を胸ポケットの中で聞き喜んだが、弟子の方は緊張で手が震えていた。
いつもの建物まで戻ってきても、ダリオはまだ緊張していた。
「賢者に、なってしまったんですよ……」
「その為に私の元で修行していたんだろう。良い事じゃないか」
「で、ですが……私はまだ未熟ですよ……!」
「私とて熟すなどという事はない、安心するといい」
「そういう話じゃありませんよぉ……!」
それが街に広がるまでは数日はある。
けれど、新たな賢者となった事が広まれば。
今日までは『戦いがあるから』、と相談を控えていた者達が、列を成す事は『森の大賢者』の弟子をしていたダリオにはすぐに理解出来た。
はあ、と深いため息をついてから、数日後に始まるであろう質問攻めを考えダリオはうなだれた。
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