戻ったのは

1/4
前へ
/11ページ
次へ

戻ったのは

 ボロボロの身体で、魔王の根城から戻ってきたオーガの青年は、街の人達に迎え入れられた。元々穏やかな性格で、力持ちな彼は人々の手伝いを良くしており、彼の帰還を喜ぶ人は多かった。  だが、その表情はしばらくすると険しいものに変わっていく。  顔を伏せる者も、涙する者も現れ、言葉をかける者も居なくなっていく。  それは、彼を責めている訳ではなかった。  一緒に旅支度をして、街を出たはずの、勇者と賢者が居ない。  それが一体何を意味するのか。  分からない者はいなかった。  普段から賢者が住まう街の人々は、知識は身近なモノであり、他人の心にも敏感だった。  一体何を想いながら、オーガの青年が一人で戻ってきたのか。  普段は笑顔で、少し恥ずかしそうに挨拶を交わす青年が、険しい顔で歩いている。街の人はかける言葉も見つからず、青年が賢者の家へと入って行くのを見守っていた。  哀しみにくれているのか、怒りに震えているのか。  そう思う街の人達の想像とは異なり、彼の胸の中は焦りで一杯だった。  扉を閉めた瞬間、青年の口から言葉が漏れる。 「……どうしよう」  小さな声でつぶやいたその言葉は、扉の向こう、距離を保って心配そうに見つめる街の人達には聞こえるはずもなかった。  というのも、街から少しかかる王宮にも彼は先に向かっていたのだった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加