戻ったのは

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 魔王の根城から、急いで戻った賢者の弟子は報告に来ていた。  見覚えのあるオーガの青年を前に、討伐を命じたその国の王は言った。 「勇者と、賢者はどうしたのだ……」 「勇者様と、賢者様は……」  走ってきたのか、呼吸が整わないまま跪く彼の言葉は歯切れが悪かった。  それにより、賢者の言葉を良く聞き入れ、出来うる限りで惜しみなく力を貸した聡明な王はオーガの青年を思いやった。 「よい」 「……え?」 「口にせずともよい」  全て分かっている、とでも言いたげに、普段から威厳はあるが誰に対しても穏やかな表情で接する王は、哀しげな眼をしていた。  一方、オーガの青年は目をぱちぱち、と瞬きを繰り返していた。  きっと戦いで動揺しているのだ、そう思った王は穏やかに彼を讃えた。 「……ダリオよ、良く戻った」 「は、はい……!勿体なき、お言葉にございます」  王の思いがけない言葉に、真面目なオーガの青年は頭を下げた。  それにより、身体が元々丈夫だから立っていられるだけで、全身に傷がついているのが王には見えた。自身の傷よりなによりも、とにかく王にご報告を、そう言った勇敢な戦士に敬意を表し、身なりも整えないままに、彼は王の間へと通されていた。 「どのような、戦いだったかは後で詳しく聞く。今は、無事に戻ったお前の傷を治す事が先だ」 「は、はい」 「癒しの効果のある湯に使っていくがよい。オーガであるお前には効きづらいかもしれないが、多少は効果があるはずだ」 「ありがとうございます」 「……それから、辛いだろうが、勇者と賢者の最期について話して貰うぞ」 「えっ」  最期、と王様は言っただろうか。  疲れてあまり頭が回らなくなっていた青年は、とにかく報告をしなくては、以外の思考がここで覚醒した。  しかし、それは少々遅すぎたのだった。 「疲れたであろう。部屋を用意させたので、そこで休むもよし、湯に浸かるもよし。好きに過ごしなさい」 「え、あ……あの」 「安心せよ、邪魔はさせぬ。本当に、良く戻った」  王の力強い言葉と、あまりの優しさにオーガの青年は言葉を失った。 ―― これは今更覆せるものではない。  ここで言いだす事が出来なかった青年は、王に深々と一礼をし促されるままに用意された部屋へと向かって行った。  そして、誰も居なくなった部屋の中。  彼はボロボロになった服の胸ポケットの中にある命に優しく触れた。
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