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「まず『いえ』の定義だ。いえは物理的な意味合いで使われ、主に建物としての家を指すんだ。すなわちとても人間臭い、人為的なものなのだよ」
コールズが縮こまった両手を枕にしながらドーソンの方を向いて、ゆっくりゆっくり喋り始めた。吹き荒れていた風が呼応するかのようにぴたりとやんだ。
「……で、もう一つの『うち』はどうなんだ」
ドーソンが正解を催促するが、コールズは考え込んでいるのか中々喋らない。大きく背伸びをするように寝返りをうって背面の草むらを揺らした。そしてようやく答えた。
「分からん」
「は?」
「分からないんだよ、それは」
コールズが呟くように言う。彼の目は天上に美しく光る星々を真っ直ぐにとらえていた。ドーソンが呆れたように、にやにやと笑い始める。
「おいおい、コールズ。さっきお前は自慢げに分かってると答えたよなぁ。全く冗談は食事の時だけにしてくれよな」
コールズの視線が凍った星からドーソンの剥き出しの歯に移る。
「やれやれ、分かってないのは君のようだ。どうやら今晩は随分気が早いじゃないか。もう少しゆとりを持ったほうがいい。さもないとこの先、生き残れないぞ。」
コールズがぴしゃりと諭すとドーソンは遠慮がちに苦笑いをした。と同時に、この状況下でも冷静な友人に心から感謝していた。
「悪かったよコールズ。俺はちょっと頭が悪いもんだからもっと丁寧に言ってくれないか」
「『うち』は心理的なもの、つまり人によって定義が違う言葉ということだ。当然、様々な意味合いがある。さっき分からないといったのは明確な答えがないからなのだよ」
コールズが噛み砕いて分かりやすく説明するとドーソンは感心したように頷く。
「さすがだな、馬鹿な俺でもよく理解できたぜ。しかし俺らがホームレスじゃないと言ったのはどういうことなんだよ」
ドーソンはコールズのほうに転がって質問する。離れて寝そべっていた二人の距離は、いつの間にか白い吐息が重なり合うぐらい隣り合っていた。その吐息にのせてコールズが話し始めた。
「マイホームを空爆で失ってからずっと考えていたことがあるんだ。本当の家は一体どこにあるのかってね。ここ半年の間みじめな公園生活をしていたが、実際は問題ない暮らしをしているじゃないか。ドーソン君、私は常々思うんだ。人間、いや生命にとっての家は地球そのものなんじゃないかってね」
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