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「なぁドーソン君、そんな悲しい顔をするのはやめたまえ。見てるこっちまで心が冷えて、全然眠れなくなってしまうよ。ただでさえ凍え死ぬぐらいに寒いんだからな」
薄い月明かりに抱かれたコールズは、隣でふてくされて寝そべる友人を優しく励ました。小汚い口元をとがらせて、ドーソンがすぐに言い返す。
「あぁそのとおりだよコールズ。もっともここが郊外の寂れた公園じゃなくて温もりのあるマイホームだったらの話だが」
冷たい夜空を白鷺が二人の野宿者を嘲笑うかのようにふらふらと飛んでいた。加えて老いた冬将軍がため息をつくと、いつもは柔らかなドーソンの表情を無情にも固くさせた。
「まぁ落ち着け。今はこんな底辺の生活をしているが、明日にもみんなで屋根の下、仲良く暮らせるかもしれないよ」
コールズの温かい言葉はドーソンには全く効かないようであった。突然、顔を真っ赤に染めて頭をかきむしりながら狂ったように叫び始めた。
「みんな? 今みんなって言ったよな。もうこの都市には俺とお前しかいねぇんだよ! 他のダチも、俺の嫁と子供も、行きつけのレストランもみんな空爆で飛んじまった。第三次世界大戦なんて前の比じゃねぇ、後は二人で野垂れ死にだ」
溜まったフケが周辺に飛び散るも、そんなことは全くお構いなしである。
「それはもう半月も前のことだぞドーソン君、いい加減前を向いたらどうだ。野宿も星がきれいに見えていいじゃないか」
そうは言うものの、コールズの脳裏に半月前から始まった大戦の映像がありありと浮かんだ。いつもは記憶の片隅にしまってあるものだが、久しぶりの会話に誘われたのか鮮明に思い出してしまう。
急な宣戦布告からの電撃掃討戦。たまたま休暇中で自宅にいたコールズは幾機もの爆撃機をただ見送ることしかできなかった。幸せな日常生活は瞬き一つで崩壊したのだ。
暗い気持ちを払拭するかのようにコールズはドーソンに問いかけた。
「なぁ、君はいえとうちの違いが分かるか」
「そんなこと考えたこともなかったな。二つの言葉に明確な違いなんかあるのかよ」
半ば発狂していたドーソンはようやく落ち着きを取り戻した。灰色の顎髭に手をおいて、しばしの間考え込む。
「……やっぱ分からねぇ。おいコールズ、正解はあるんだろうな」
コールズはにっこり笑って答える。
「あぁ勿論分かっているさ。それと僕らがホームレスなんかじゃないこともね」
「なんだって?」
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