Dr.漆原

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
都内の一等地に、超高層ビルがある。一流企業が立ち並ぶオフィス街に、特殊ガラスで覆われ、中を覗いたりすることができないようになっているこの建物は、ガードが厳しく、入り口にはなんとカメラが8台も取り付けられている。誰にも知られていないが実はこのビルは、国立科学研究所の東京本部である。国立科学研究所は北は北海道から南は沖縄まで、ありとあらゆる場所に点在している。離島にまである。ほとんど他のビルと変わらない一見普通の外観をしながら、それでいて重厚な警備。この研究所には明らかになってはいけないたくさんの秘密が隠されている。 その中でもわずかな研究者しか入ることのできない場所が存在する。そこへ行くには、まず、研究所の中にある特殊なカードを用いてしか入ることのできないエレベーターを使う必要がある。そのエレベーターを使ってしか地下深くにある秘密の研究エリアにたどり着くことはできない。この話はそんな-(エリア38)国立科学研究所の立ち入り禁止エリア-で起きた話である。 エリア38の会議室では二人の男が小一時間、どうにも解決しがたいことについて、話しあっていた。一人は田宮誠、研究所のベテラン職員で現在魔法部の部長をしている。もう一人は二宮総一郎、九州にある大学を卒業してすぐ、この研究所に入るため宮崎から上京してきたばかりの新人である。メガネをかけた白髪の初老の紳士、田宮先生は、困ったように眉をひそめ、「あなたのお気持ちはよくわかりました。しかし、この魔法部ではあなたの望むように、鳥に乗って、空を飛ぶなんてばかげた研究は無理ですよ。そんなお金のかかる研究はもうできないんですよ。」と、言った。その後「なぜですか?田宮先生!!オレはとんでもない魔法研究ができると思ってここに来たんですよ!!この科学研究所で魔法をいっぱい研究して、世界をあっと言わせるんだ!!そう思ってオレは、来たんです!!!なんでオレに研究やらせてくれないんですか?研究企画書だってほら何十枚も渡したのに、、」オレは言った。 「昔はできたんですがね。お金のかかる研究はね、もうできないんですよ。こんなに企画書をもらったってね。今この研究所ではもっと国民のためになることをするんです。」 田宮先生はオレの意見に全く取り合う気持ちがない様子で目も合わせず早く部屋から出ようとしていた。オレははなんだか虚しくなって、肩を落とし涙があふれてきそうだった。 暖かい光が差し込むようになった春、総一郎は研究所の職員となった。研究所は医療、工学、生物学、数理学、魔法学の4分野が主体であり、総員300人の各分野のトップ研究者が集まる場所であった。魔法学は高校や大学になっても教えられないような、いわゆる禁じられた学問であったため、研究者として認められるためにはこの研究所にどうにかして潜り込まなければならない。総一郎はそう思い、まず研究所の警備のアルバイトから始め、つてを作りこの研究所に入ることができた。しかしそんな研究所は今、窮地に立たされている。研究費用は国の税金が60%で、残りが寄付金で賄われているのだが、近年の震災や豪雨被害に税金を回す必要があるため、ちょうど4月、国民の役に立っているかが見えづらい研究に対し、国から費用がもらえなくなってしまったのだ。よって、この研究所の魔法学分野でも多くの研究に対して、費用がもらえなくなってしまったという。そもそも魔法研究は外部にはあまり公表されていないのも原因の一つだ。なぜなら、一歩間違えればとてつもなく危険な研究であるので、その研究内容および研究場所は秘密にされているし、役人の中には危険すぎるが故に魔法研究自体をやめろという声も上がっているくらいだ。だから魔法研究が国民の役に立つか立たないかなんて、証明したくてもできないし、仮にできてもお金はそんなに増えないだろう。 総一郎は、研究所に入ってから何も研究することができずピカピカのまま何も置かれていない自分の机ににじっと座って打開策を考えていた。オレにはどうすることもできない。この研究ができない現状は変えられない。オレには夢があるのに、、、オレに小さい頃両親が買ってくれたマンガがあって、そのマンガは魔法戦士達が何やら呪文を唱えて、悪の強敵に立ち向かうカッコいいアクションシーンがあって、オレはそれに憧れてた。それからというものオレは魔法に強く憧れて、魔法書の類なんかはもう何百冊も読んだ。ガキの頃は絵本とかマンガばっかりだったけど図書館の禁書コーナーには何度も忍び込み、専門書も手に入れた。知れば知るほど、魔法がどんなに素晴らしいものか、面白いものかわかって、胸がワクワクした。魔法学は危険な学問だと学校では禁止されていた。だけどオレはどうしても勉強したくて、独学で魔法を使えるようにし、自分でもいくつか研究をしてみた。魔法学ってのは魔法を使えるようにするだけじゃなくて、自分で魔法を作り出したりもする。この魔法開発は今ある魔法を全て使いこなすことができるようになった上級者ができることだけど、オレはそれはできなかったから、必死で調べて、この研究所を知った。この研究所では、魔法学の専門家がゴロゴロいるけど、場所は秘密だった。だから、街で見かけた魔法使いをこっそりつけたりして、やっとこの場所に辿り着いた。ここにいまいれるのは、オレの今までの努力が実を結んだ結果だと思う。そんな誰にも内緒で調べて、この研究所に来れたのだから、何か面白いことがしたかった。それなのに、、、 研究所では、主に役所の文書改ざんだとかそんなことばかりやらされた。それから、掃除。この秘密のエリアだけでもかなり広くて、一日では掃除しきれず、何日も何日も掃除するはめになった。でもここで一つ発見があった。漆原研究室。天才魔法研究者の漆原先生の部屋が見つかったのだ!!!漆原由美先生は、若くして、魔法学研究の国内ナンバーワン研究者で、ちょっと前までは空に絵を描く研究をしていたのだが、最近は犯罪者の潜伏先をすぐに見つける研究を行っていると聞いている。オレは彼女に実際あったことはないけど、本では何回も見ていて、ぜひ会って話をしたいと思っていた。掃除の合間に彼女の部屋に立ち寄り、ノックをしたけど返事がなかった。でも研究所の他の職員達によると彼女は部屋にいるそうだ。彼女の部屋は鍵がないのに、なぜか開かなかった。特殊な魔法がかけられているみたいで、扉から強いエネルギーを感じる。扉の近くに行くとちょっとビリビリとくるのだ。だから、扉を無理やり押そうとすると、ギーんギーんと耳鳴りがして、全身痙攣して、しばらくの間動けなるほどだった。さすが天才研究者だ。漆原先生が作った魔法はなんと500に及ぶ。もう何をしても開けられるはずがない。そこでオレはひらめいた。この研究ができない状況を先生なら、なんとかできるのではないか?そうして、オレは漆原先生が部屋から出てくるのをずっとある日の朝から晩までずっと待っていた。でもこの扉が開かれることはたったの一度もなかった。オレはしびれを切らしてその日の夜、 「オレはもっと面白い研究がしたいんです。この研究所でそんな面白い研究ができたら、きっと国民のみなさんにも喜んでいただけます。だから、お願いです。漆原先生、オレを助けてください。」 オレは必死でドアを叩いて、何度もドアの前で頭を下げた。すると中から、漆原先生が現れた。思っていたより、ずっと綺麗で髪がつやつやであと背が高くて、170はありそうだった。白衣を着た先生の眼光は鋭く、薄い唇からは何の表情も読み取れなかった。そして一言、 「なぜ、私がそんなことをしなければいけないのですか」 先生は冷たい目でオレを睨んできた。オレはがっかりして、なんでなんだよ!!!と思った。あんなに頼んだのに助けてくれないのか、ひどい先生だとオレも先生を睨み返した。先生は「私はそんなことしなくても自分の研究が続けれたらそれでいいの。あなたがなんの研究をやりたいかは知らないけど、あなたの研究が税金を使ってまでやる意味のない、そんななんの役にも立たない研究だから、やらせてもらえないんでしょう。役に立たなきゃ、研究者などいる価値がないのよ。」先生はそう言ってまた扉を閉めようとした。オレは先生の顔を思い切りビンタした。先生の真っ白な顔はみるみるうちに赤くなって、オレがビンタしたそのまんまオレの手の跡がくっきりと顔に残った。「先生は勘違いをしています。先生の研究は確かに農業とかいっぱい役に立っています。でもその役に立つだけが研究の目的じゃないんです!まだ知らない謎を解き明かしたり、新しい発明をするのが楽しいから研究ってのはやるんです!そんな面白いことをすることで、たまたまそれがみんなの役にも立つ。役に立つことだけやってたら、いつかつまらなくなって、何も生み出されなくなる、そう思いませんか?」オレは先生に言った。 先生はふふふとちょっと笑った。「そうね、そう!最近何にも研究が進まなくてね、困ってたの。でもあなたの言う通りかも知れない!役に立つじゃなくてただ面白そうというそんな気持ちでやってみるのも悪くないかもね。」 漆原先生はそういうと、目をグッと見開き、目の色を黒から真っ黄色に変化させ、そのまま両手を大きく広げ、手からものすごい勢いで光を部屋中、いや研究所全体に放った。先生以外のその場の空気がぶるぶると振動し、床までもギシギシと動いた。研究所中が先生の放った光のエネルギーに飲み込まれているみたいだった。オレはその時、あまりの光の強さに目を開けることができないでいて、身体中が熱くなった。その時オレは何が行われたか、理解することができなかった。でもそれからすぐに研究所の雰囲気は一気に変わって、みんな自分の好きな研究ができるようになった。オレもやっと企画書が一枚だけ通りなんとか研究を始めることができるようになった。今でも、漆原先生が何の魔法を使って研究所の研究がいろいろできるようにしたのかはわからない。お金は相変わらず、回ってこないみたいだし。 漆原先生が魔法を使って二週間がたったある日のことだった。総一郎は火を使った魔法で、料理を一瞬で完成させる研究をしていた。テーブルの上に並べられたジャガイモ、ニンジン、鶏モモ肉、カレー粉は、魔法をかけると、大きく燃え上がり、辺りを一瞬で黒焦げにしテーブルクロスに燃え移ったあと、総一郎の手を襲った。 「あっちちち。まーた失敗だよ。うわ、オレの手、火傷してんじゃん。」 その時、艶やかな黒髪の美人がさっと歩いて、オレの火傷した手にキスをしてくれた。 え、もしかして漆原先生!? そのあと手の痛みがすーっと引いて火傷したのが嘘のようだった。漆原先生はやっぱり天才だと思った。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!