1.ヤンデレストーカーの完結世界

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1.ヤンデレストーカーの完結世界

   倒れたビル、散乱する瓦礫、チープな終末の映画のセットのようだ。うず高く詰まれたコンクリートに座ってぼんやり考えた。  ここが現実で、ほんの前まで、ここが世界有数の経済都市だったなんて、信じられるだろうか。  いや、今となってはどこも似たような状況か。 「だって、みんな邪魔だったんだもの」  何人生きているんだろう? この辺では物音もしない。 「みんなみんな邪魔だった」  気配も、無い。 「きみと、私の、邪魔だったの」  すべて消えた。 「きみの友達もきみの家族も私の家族も“会っちゃいけない”って」  数日前まで、俺は普通の高校生で、俺には家族がいた。数日前まで。 「邪魔、するんだもの」  背後から搦まる細い腕。  数日前の俺には、ストーカーがいた。 「だからね、無くなっちゃえば良い、って思ったの」  始まりは告白だった。可愛かったが断った。  その内付き纏われて。最初は囃していた友人たちも。 「みんな、“がんばれ”って言ってくれたのに」  次第に常軌を逸したストーカーの言動に危機感を持った。 「ちょっと、私のきみを誑かす女を階段から突き落としただけで」  始めは俺を宥めていた家族も、不法侵入を繰り返すストーカーに恐怖を覚え。 「きみのお父様もお母様も、“出て行け”って」  警察にだって頼った。 「とうとう、国家権力すら妨げて、さ」  全部が俺の味方をしてくれた。でも。 「だから、消しちゃった」  ストーカーは『天才』だった。  俺が狙われたのもたまたま、空港で学会に向かう途中だったストーカーの落し物を拾ったから。それだけ。  あんな華奢で小さな少女が、細菌学の天才だなんて誰が知るか。  幸い、権力はストーカーの親が持っていて、俺のことは気に入らなかったストーカーの親は俺に協力的だった。だが、研究所に隔離され、追い詰められたストーカーは。 「結構簡単に出来たんだ。これってさ、」  悪魔を、造り出した。 「神様も祝福したんだって思うんだ」  異国の神を貶めたのが悪魔の原点だと言う。  なら、確かにストーカーの元で産声を上げた悪魔も、神なのかもしれない。 「これで、何の障害も無く、二人きりだね」  ストーカーが俺の項に頬を擦り付ける。  撒かれた細菌の阻害剤は二人分。  俺と、コイツの二人分。  真実を知らない大勢は恐怖に陥って、無益な暴走を起こした。  そして、爪痕だけ遺して消えた。 「あいしてるよ」  ヤンデレストーカーに知恵を与えてはならない、と俺は知った。  今更身を以て知ったところで無駄知識だけど。    【了】
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