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 澪士が職務経歴書(レジュメ)を読み込んでいる間、向いに座る柿崎貴宗(かきざきたかむね)は、(いぶか)しげにオフィスの中を見廻していた。  はじめての人材紹介会社を、値踏みしているのだ。  澪士が職歴書から顔を上げる。 「では、質問させていただきます」 「その前に、御社は人材紹介業は何期目ですか?」 「三期目です。それがなにか……」 「いえ。御社の規模で私に紹介いただけるクライアントが有るのか気になったので」 「それは、弊社の顧客数が不安だということですか?」 「数もですが、年俸(サラリー)を出せるところがあるか、です」  柿崎の希望年収は二千万円だ。 「柿崎さん、弊社のクライアントが、あなたに二千万払っても惜しくないと判断すれば、出すと思いますよ」 「そのクライアントは何社ありますか?」 「それは、柿崎さんを紹介してみないことには……」 「それはそうか。ただ、御社にも悪い案件(マター)じゃないでしょう。私の紹介料(フィー)で、最低(ミニマム)四百万は見込めますよね。美味しいじゃないですか」 「……ええまあ」 「ただ、御社の前に大手の紹介会社に二社登録してきました。御社にチャンスがあるか」 「ご丁寧にありがとうございます。これもご縁なので、精一杯がんばります」  澪士が作り笑顔を浮かべると、柿崎は満足そうにうなずいた。 「それと水守社長。もし将来的に事業売却をご検討の際は、お力になりますよ」 「ありがとうございます。今のところ売るつもりはありませんが……柿崎さん今日は、転職のご相談でいらしたんですよね?」 「将来的にの話です。損はさせませんから」 「わかりました。では、その際は——」  その後、職務経歴のヒアリングを終えると、帰り際に柿崎は「期待してますよ」と残し、オフィスを後にした。  柿崎はM&Aのコンサルタントで、かなりの実績を上げていた。  澪士が経営する人材紹介会社をネットで見つけ、登録に来たのだ。  澪士はM&Aの人材を探していたが、柿崎には黙っていた。高飛車な態度が気になったからだ。  澪士は職務経歴書の柿崎の写真に右手をかざし、ゆっくりと目を閉じる。  目の前の黒いスクリーンに、柿崎の心の中が映像として現れはじめた。  灰色の無機質な部屋の中央に、黒光りする大きな甲冑が立っている。  黒い髑髏(しゃれこうべ)のような鎧兜(よろいかぶと)に洞窟のような眼窩(がんか)。その眼窩の奥で黒目が、何かに怯えるようにぎょろぎょろと動いていた。  
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