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夜の十一時過ぎ。
帰宅した柿崎に、「あなたお食事は?」と妻の可南。
「ああ、いらない。会社でカップ麺食べた。ビール出してくれ」とリビングテーブルに着く。
柿崎は「本当に最近の若いのはやる気がない」とため息をもらした。
「若いのって、あなただってまだ四十代じゃない」
「俺が紹介会社からオフィスに戻ったのが二十時で、すでにもぬけの殻だぞ。大事なプレゼン控えてんのにあり得ないだろ」
可南は答えず、柿崎が食べなかった料理にラップをかけ冷蔵庫にしまう。
「しょうがねえから俺一人で残業だよ」吐き捨て、ビールを流し込む。
「あなた、テーブルのその絵、見てあげて」
「え?」
テーブルに画用紙が置いてある。
息子の英斗がクレヨンで描いた絵だ。
ふーんと一瞥し「下手じゃないけど、勉強はどうなんだ?」と訊く。
「先生が大変よくできましたって。小三にしては、かなり上手いと思うわよ」
「将来絵描きにでもするつもりか?」
「そうは言ってないわよ。ただ、パパほめてくれるかなって……」
「これで食えるようにはならないだろ。プログラミングはどうなんだ?」
「あれは四年生から。来年からよ」
「とにかく算数と英語。これだけやっとけって言っといてくれ。風呂入る」
柿崎が放り投げるように置いた絵を手に取り、可南は小さなため息を吐く。
明日英斗が起きたら、パパほめてたわよって嘘をつくべきか。もう一つため息を重ねた。
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