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桃色の謎を考えていたら三歳になった。
この歳になると家の中も自由に歩ける様になった。それで分かった事はまず術をこの家の住人は無駄に使用しない。竈の火を焚くのも物を取るのも灯りをつけるのも自力で行っているのだ。だったらメイドでも雇えば楽になりそうなのだが、お母さんに言ってみたところ「家にそんな贅沢なもんはいりません」とキッパリ断られてしまった。それと僕の名前<エセ=カネカ>についてだがやはり金返せでも偽物野郎でも無かった、エセとはこの世界の単語で美しい何かを表現する形容詞らしい。カネカとはこの家の名前つまり苗字に当たる。まあ後は前世みたいに一週間に一回はステーキが出てくるとか家に突然キラッキラのスーツを着た人間が訪問して来るとかは無さそうだ
それにしても<術>の使い方が分からない。
頭の中に聞いてみても「教えられません」
としか答えないし、本には書いてないしお母さん(グアニス=カネカというらしい)もお父さん(ミネソタ=カネカ)まだ早いとか言って教えてくれやしない。何なんだ、この世界では術は禁忌なのか?ますます分からない
━━━おーい、帰ったぞー
あのやたらおっさんじみた聞き取りにくい声はお父さんだ。そう言えば朝早く何処へ出掛けたんだっけ
「おかえりなさーい!お父さ……」
向かった先に居たその姿を見て俺は思わず言葉を失った。肩に担がれたキジの姿をしたそれは白目を剥いて、天を仰いでいる。左足からは真っ青な血が絵の具みたいにぽたぽた垂れて床が汚れちまってんじゃねえか…….あらまあ
「ただいま、エセ。ってどうした?そんな端っこで震えて」
「だ、だって……した……死体……」
「死体?ああ、ジェスタの事か。コイツは上等だぞ〜」
「ひっ…………!」
ミネソタはやたら嬉しそうにその白目を剥いたジェスタと呼ばれてるらしい鳥をこちらに
近づけた。止めてくれろマジでジビエとか鳥の解体前のとか苦手なんだよぉ……
「あなたちょっと来なさい」
「え?」
しかし、調子に乗り過ぎたのかミネソタは
お母さんに注意されたらしい。僕に聞こえない様に離れて怒っていたけど割と聞こえた
しばらくして、鳥を抱えたまましょげたお父さんと鬼の様な顔をしたお母さんが戻ってきた。お父さんが抱えてた鳥を何故かお母さんが今度は肩に担ぐ。はっきり言って意味が分からない
「着いてきなさいエセ」
「う、うん」
そして、お母さんが向かった先は外だった
外には水が縁まで溜まった壺の様な物と1mは軽くあるだろう大きなまな板が置いてあった
「いい?あなたはこれを見て怖いと思った
でもねそれはとっても大事な事なの」
エプロン(?)の紐を締め、吊り下げられた
包丁を右手に持ち、鳥の首へ向かって振り下ろした
「だけどね、これは知らなければいけない事なの。食べる前に……何かを殺さなければいけないという事」
皮を剥ぎ、腹に包丁を刺し、内臓を丁寧に取り出した。早くそして丁寧そんな感じだ
「今も何処でこうして綺麗な肉にする為に
働いてる人が居る、それが結局大事な事だと
思うの。ほら」
「あ……」
お母さんが渡したのは綺麗な赤色をした肉片だった。さっきまで一匹の鳥だったのがこんな肉片になるなんてと僕は口をあんぐり空けてそれを眺めた
「それが命だよ。そして、私達のエネルギー」
包丁を洗いながらお母さんは言った。そのエプロンは真っ青な血で染まっていたのだった
夕飯にその肉はステーキとして出された。
白目を剥いた姿がどうにも忘れられ無くて
中々食べる勇気が出なかったが、皿の端に溜まる肉汁を見てるとどうにも美味しそうで一口食べたら、全部食べてしまった。
お母さんとお父さんはそんな僕を見て、小さく笑った様な気がした
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