その14.友達

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その14.友達

 先日、入学式を終えたばかりの優。  そんなこの世で一番何よりも誰よりも大切で大好きで愛しい娘が突然、 「ぱぱー! おともだちつれてきた!」  そう……お友達をつれてきたのだ。 (友達だぁ? ワンチャン狙いの男か? だったら絶対に許さねぇ……どこの馬の骨とも知らん奴に優はわたさねーからな……!!)  殺意を撒き散らしつつ玄関へ行くと、そこにいたのは、 「みゆちゃんっていうの!」  今日もまた一段と輝く笑顔を浮かべるマイエンジェル優と、一見普通の女の子らしき『みゆ』ちゃん。  だが、俺は見た目には騙されねぇ。  どうせアレだろ?複雑な家庭環境で育ったがゆえに女装して小学校へ入学したところ早い段階で優にそれがバレてしまったが優の持つ天使のような優しさにより全てを包み込まれ強い絆で結ばれその後もなんやかんやありつつめでたく優とハッピーウェディング!とか企んでんだろ?  人生そう簡単にはいかねーってことをわからせるしかない。男の娘でも許さねーし優はわたさねぇ。 「ゆうちゃんのパパ、はじめまして! さいとうみゆです! うわさどおりかっこいいですね! よろしくおねがいします!」 「ははっ、褒めたって何も出ないよ。こちらこそよろしく、みゆちゃん!」 *** 「簡単にいっちゃってんじゃん。コロッと落とされてスパッとフラグ回収されかけてんじゃん」 「黙れクソ虫……」 「俺、虫!?」  一人じゃこの事態を対処しきれず、仕方なく……仕方なく!樹久を呼んでやった。  今、優と(自称女の子の)みゆちゃんはリビングのすみで遊んでいる。おままごとセットを色々と広げて。 「おーう、かえったぞー」 「おかえりなさい、あなた」  太陽よりも眩しく輝く優のエンジェルスマイル。ああ、癒される……。 「将来は俺も、ああやって出迎えてもらえるのかな……」  とかほざきやがった樹久の首を締め上げる。 「パパ上、パパ上……締まってる。呼吸でぎな゙い゙がら゙、ねえ、」  俺の腕を叩いて「ギブ、ギブ! ギブマーソン!」とか言う樹久はとりあえず無視した。  そのまま、おままごとの観察続行。 「あなた、わたし……あかちゃんができたの」 「赤ちゃんだぁ!? 孕ませたのはどこのどいつだ!? 下半身脳みそ野郎は今すぐ母胎に返してやる……っ!!」 「あの、その前に……俺……俺が土に還る……」  目をまん丸くして俺を見る優とみゆちゃんの姿にハッとする。  そうだ、所詮はおままごと……バーチャル、フィクションだ。  落ち着けと自分に言い聞かせながら深呼吸をし、樹久を床に放り投げる。 「うまれましたよ! げんきなおんなのこです!」  生まれるの早いなオイ。 「ぱぱー! ちょっとてつだって?」 「おう、任せろ」  椅子から降りて床に座ると、俺の前に優とみゆちゃんが並んで腰をおろす。  途端に、なぜかやや緊迫した空気が流れ始めた。  しばらくの静寂の後、みゆちゃんが重苦しそうに口を開く。 「おとうさん、」  誰がお義父さんだ。 「むすめさんを……ぼくにください!」 「……なんだと?」  思わず素の声が出てしまう。  ゆらりと体をやや斜めに倒し、女装少年みゆちゃん(疑惑)に目線を移した。  人生は甘くないってことをわからせる時が来たようだ……たとえままごとであろうとも、 「うちの娘は……何があっても、絶対に、どこの馬の骨とも知らん奴には絶対に優はわたさねぇ……わかったらまず正装で手土産を持って来るところから出直すんだな」 「うっわ……真也、めちゃくちゃ大人げ……ナイトメア!!」  樹久に回し蹴りをキメると、みゆちゃん(仮)は恐怖からか瞳がぐらりと揺れる。  優はこんなのはいつものことだから気にしないんだがな。 「わかったか……?」  その日、みゆちゃん(仮)はひきつった笑顔で帰っていった。  しかし――……次の日から、 「ゆうちゃんのぱぱー! いっしょにあそぼー!」 「おままごとしよー!」 「このまえのキック、みゆにもういっかいみせてー!」  優の女友達(多分、全員本当に女。みゆちゃんも含め)からの、おままごとの勧誘が凄まじかった。
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