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執務室のドア側に寄り、ホルダーからナイフを取り出す。ドア側に家具は無く広々としていて、練習にはピッタリだ。抑々、執務室で練習して良いんだろうか…?
「あ、あの…、執務室で練習して良いんですか…?」
「えぇ。本来は地下室でやるんですが、今、捕虜が居まして。僕が、楽しみ過ぎて血みどろの掃除に手間取ってるんです」
あー…捕虜で、"遊んでた"んだ。地下室で捕虜を拷問してるのと同時に先生の"お楽しみ"の時間でもあると言う事か。
「という訳で、やりましょうか」
「先生、私1回先生と対戦したいです」
私が唐突に言った言葉で、先生はポカンとしている。
「え、練習は?」
「1回、先生と対戦して、それから改善点を挙げて欲しいんです…。駄目ですか?」
「あ、あぁ、構いませんよ。それじゃ其方からどうぞ」
ナイフを構える。先生は余裕な笑みを浮かべ、こっちを見つめる。先生に向かって近付き、ナイフを振る。
「ほらほら〜、動きが遅いですよ〜」
「ふっ、くっ」
どれだけナイフを振り下ろしても、容易く避けられてしまう。ずっと先生は後ろにピョンピョンと飛んで、距離を取り続ける。段々と息が切れてくる。先生は、攻めてこないのだろうか…。私のナイフの速度が、一段と遅くなった。その時、
「甘いですよ!!」
「っ!あ!」
先生がいきなり攻めてきた。首を狙って来て、寸でのところで、ナイフをナイフで受け止めた。部屋に鳴り響く金属音。この空間だけ、戦慄している。
「一瞬でも、隙を見せたら死ぬと思いなさい。それと、ナイフは逆手の方が扱いやすいです。疲れたでしょう…。1回やめましょうね〜」
「あ!まっ、」
ナイフを壁に弾き飛ばされ、先生が私に覆いかぶさって、顔の右横にナイフを突きつけた。
「このまま練習し続けたら、瑠衣は立派な暗殺者になれますよ。改善点は、隙を見せない。筋力、体力をつけておく。ナイフは逆手。これだけです。中々筋が良かったですよ」
「あ、ありがとうございます…」
「ん?どうしました?また、顔を赤くして」
「い、いや、だって、だって、今先生、私を、押し、押し…!!」
「押し?」
コンコン…ガチャ
「え、えっ!ちょ、まっ!」
「止血されて、鎮痛剤も効いてきて、体調だいぶ良くなった……………ぞ」
「あらあら、遥ちゃん。回復速いですね〜」
「っ!!〜〜〜〜っ!!!!!」
み、見られた。夜野さんに…。
***
「という訳です……」
案の定、夜野さんには、ナイフが見えておらず、先生が私に床ドンしているようにしか見えていなかった。その誤解を、一生懸命になって解き、疲れがドッと出た。
「俺の頭の中では、真が瑠衣を襲うシチュエーションが出来上がってた」
「いやいや、まだそんな事はしませんよ〜。………"まだ"………ね」
まだ…?それじゃあ私ホントに先生と………。あっ!!大事な事聞かないと…!!
「あの、ハニトラの練習は?」
「しませんよ」
「え、しないんですか?」
「基本的にハニトラは、ピンマイクで指示されたことしかしないからな。その時の状況で、何をするか変わってくる。真の指示を聞いてれば平気だ」
そうなんだ…。てっきり練習をするものかと思ってた…。
「後は、当日にどうにかしますから。と言っても、明日なんですけどねっ!」
「えぇーーーーーーー?!!!!」
これは、叫んで当たり前だ。
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