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「さぁ、瑠衣。お手をどうぞ」
「は、はい。先生」
衣装に着替え、本拠地から出る。黄昏時が、もうすぐ終わりそうだ。夜は"大人の"時間。
「そうそう、カジノに着いたら、恋人同士になるので名前で呼んで下さいね、瑠衣」
「し、真さん」
照れながらも、名前で呼ぶと先生は、ニコニコする。恋人同士としての役柄でも、本当はそうでは無いことに、少し寂寥感が滲む。
「全く、まだ怪我人だってのに、人使い荒いサイコパスめ………」
「まあまあ、車で待機しててくれれば良いですから。動かなくて良いですよ」
「そういう問題じゃねぇよ……」
車の運転手は夜野さん。鎮痛剤が効いてきたと聞いて、先生は夜野さんに同意を求めず、勝手に運転手に決めた。先生と口喧嘩を交えていたけれど、来てくれて有難い。黒塗りのベンツを夜野さんが走らせ、私と先生で作戦を練る。
「実はですね…、篠宮の情報があまりないんですよ…。情報屋を転々としたのに、収穫は無しです」
「側近あたりが揉み消してるんじゃねぇか?」
「まぁ、そうでしょうね…何だか嫌な予感がする…」
珍しく先生の眉間に皺がよる。本気で悩む先生は、初めて見た。
「気を付けろよ。何かあったら無線だ」
「解ってますよ。それじゃあ、行きましょう」
夜野さんの注意喚起を受け取り、ベンツから降りて、恥ずかしながらも、先生に腕を絡め同じ速度で歩く。地下へと続く階段を進むと、そこはあった。木製のドアを開けると、煌びやかなシャンデリアが目に入った。ビリアードや、ポーカーなどが並び、何処も紳士淑女で埋まっている。何処も彼処も、大金が積み上げられていて、犯罪臭が漂う。
「あれが、オーナーの篠宮です。場を見計らって、決行を」
ボソッと先生が耳の傍で呟いた。
「はい、真さん」
「それでは、早速」
種を撒くんですか!?先生!!!
「腹ごしらえしましょうか」
「…………………は?」
「だって僕お腹空いたんですよ…。本拠地で食べてないんですから。ね、行きましょう〜」
「えっ、えっ、ちょっ」
バーカウンターの前側に、ビュッフェが並んでいる。メインディッシュから、サラダ、デザートまで揃い、食欲を唆る。先生は、もう皿に小籠包やローストビーフなどをこんもり乗せて、食べ始めていた。小籠包を食べてる先生、物凄く幸せそう…。好きなのかな、小籠包。
「う〜ん、美味しい…!!オーナーを殺ったら、ここの料理人を連れて帰りたいですね〜、そしたら、毎日小籠包を作ってもらおうっと…。…ん?瑠衣は食べないんですか?」
「あ、えーと、種類が多くて迷ってて…」
「そうですか…、なら僕の皿の料理、食べていいですよ。あ、小籠包は僕のです」
だから食べるな、と。そんなに好きなんだ…。そう思いながら、ローストビーフを食べる。お肉が解けていって、ソースと混ざり会う。ホントに美味しい…。
「あ、付いてますよ」
突然先生に、唇の傍を舐められた。ボッと、茹でダコ状態になる。
「ソースが付いてたのでつい。美味しかったですよ」
「〜〜〜〜〜っ!!」
ふ、不意打ちは心臓に悪いです、先生……。
○○○
「フッ、ホントに来たな彼奴。だけど…、あの隣の女は、この写真の…へぇ〜、ジジイ殺ったら次の獲物は此奴だな」
忍び寄る影に、この時、私達は気づいていなかった。
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