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6話
「身元保証人、ですか?」
「そう。こういう調査依頼というのは未成年者からは受けられないんだ。誰かいないかい?君が信用のおける大人は。なんならお父さんでもいいが、」
「父には頼めません。祖母にも。父も祖母も、母の変化に気がついていないので。…大袈裟にして心配かけたくもないから。」
「…そうか。」
「お金でしたら20万円用意できます。子供の頃からお年玉貯めてましたし、バイトのお金も貯めていたので、…それでも、やっぱり駄目なんでしょうか。」
牟田は腕を組んだまま少し項垂れた。
20万円。それは少女が必死に貯めた金である。できることなら受け取りたくはない。しかし、正味な話、20万では一週間程度の調査費用にしかならないのも事実だった。
しばらく思案を巡らせた後、牟田は溜め息混じりの息を吐き、
「ならこうしよう。君が身元保証人を用意できたときから、調査を再開する。…それでもいいかな。」
「はい。よろしくお願いします。」
そして朋美は深く頭を下げた。
※ ※ ※
朋美を自宅まで送り届け、スマホを確認すると、午後八時を回っていた。
牟田は事務所へと向かう車内で、朋美はきっと身元保証人を用意できないだろうと思っていた。
しかし、
「……お?」
ハンズフリーにしていたイヤホンに、着信を知らせるアラームが鳴る。
イヤホンを軽く触ると通話状態になった。
「はい、牟田です。」
『あ、先程はありがとうございました。末安です。』
「………。ああ、末安さん、先程はどうもぉ」
牟田は明るめのトーンで返事をしたが、表情筋を一切動かさなかった。
朋美の声は息が弾んで、あからさまに慌てている。慌てていると言うより、早く伝えなければと焦っているようでもある。
「どうかしたのかい?」
『身元保証人、見つかりました!母のママ友で、私の友達のお母さんなんですけど、…友達から話してもらったら、身元保証人を引き受けてもいいって!』
「………」
牟田は眉根を寄せて、黒く癖の強い髪を掻きむしった。そしてそのまま愛車のラパンを近くのコンビニに一旦停車させる。
「えっと、…末安さん、お友だちのお母さんに事情を話したの?…その、末安さんのお母さんが、別人かもしれないって。」
『いえ。そこまで詳しくは話していませんが、お母さんの様子がおかしいから、調べてもいたいんだと伝えました。』
「………。そう。そうか。わかりました。とりあえず、また明日にでも連絡して、一度、そのお友だちのお母さんにも会わせてくれるかな?」
『あ、はい!もちろんです!沙織の、あ、友達、井上沙織というんですが、沙織のお母さんも、牟田さんに会いたいと言っているそうなんで、ぜひ、会ってください!それで沙織のお母さんが私の身元保証人になれば、依頼は受けてくださるんですよねっ!』
「………」
少女の必死さに、牟田は言葉を詰まらせた。
母親の調査をしてあげたい気持ちは今も変わらずもちろんある。
しかし、さっきの今で、おそらくそれほど詳細な話も聞いていない友達の母親が、身元保証人を快諾したことに、牟田は強い懸念を抱いた。
まして、自分に会いたいと言う。
(俺への不信感か?それとも、別の意味合いが含まれているのか?)
状況に対する判断材料は乏しいが、喜び勇んでいる若い依頼人の希望の芽を無下に摘むわけにもいかない。
胸に異物を抱えたまま、牟田はハンドルから手を離して腕を組んだ。
『牟田さん?』
「ああ、ごめんごめん、…運転中で電波が悪かったみたいだね。わかりました。じゃあ後日、その井上さんのお母さんとも面談して、再度調査継続可能かどうか話し合う方向で、」
『はい!よろしくお願いしますっ!』
「………」
今まで聞いた中で一番明るく力強い声だっただけに、牟田の困惑は深く濃くなっていく一方だった。
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