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助けて
見張りも時間が経ち、焚き火が弱くなる頃、リリィはうとうととしていた。絶対に寝まいとリリィは、眠っては起きて、眠っては起きてを繰り返す。やがて視界が薄くぼんやりとしていった。リリィは首を左右に振り目を覚まそうとするが、視界が晴れない。そして気づいた、辺りは白い霧に包まれていた。
『たすけて』
どこかからともなく声がした。はっきりと目が覚めると、すっと耳を済ませる。そっとささやかな風が木々を揺らす音、虫の鳴き声、二つの音が耳の奥までしんと染み渡る。
『いたいよぉ……たすけて』
聞こえた。子供の声だ。助けを呼んでいる。リリィはさっと腰を上げた。しかしホヅミをここには置いていけない。
『たすけて……たすけて』
声のする方は分かっている。焚き火もまだ残っている。辺りに魔物の気配はない。最悪、少し離れたところでも魔物の気配は感じられる。そしてすぐにこの場所に戻れば大丈夫だと、リリィは自身を説得して声のする方へ向かって歩き始めた。
『いたいよぉ……うぇーん』
子供が泣いている。リリィは急ぐ気持ちが逸り、早歩きになっていた。そして少しずつ子供の声は大きくなっていく。
「ママぁー! パパァー!」
月光に照らされて白い霧に浮かび上がる一つの影。そこに向かってリリィは急ぐ。徐々に影は姿を現すと、そこには子供がいた。ただ少し違うのは、子供の耳は切れ長。暗くて良くは見えないが赤っぽい帽子に、衣服はボロボロ。体中傷だらけの様だ。
「エルフの子供?」
リリィは昔、塾で習った知識を思い出す。エルフとは魔族の類だ。魔物ではない。エルフは人型をしているが、人よりも魔力が強い。更には魔物を食べずとも魔物化の可能性がある。しかし人に最も近いおかげか、魔物化の影響はほとんど受けないとされている。またエルフは人でなく魔物でもない故に、人からは魔物に近いものだと忌み嫌われ、魔物からは人に近いものだと蔑まれるなどの迫害を受ける事がよくある。そして同じ魔族でも、種族が違えば仲間意識を持たれることもない。更には魔族の中でもエルフは弱く、同じ弱い人間よりも数の少ない魔族で、他の魔族からいびりや支配を受ける事が多い。そのために繁栄が難しいとも言われている。
「人間!? もう止めてよ! オイラを、オイラをいじめないでよぉ!」
エルフの子供はリリィを見ると、頭を抱えて怯える。リリィは一歩一歩エルフの子供に歩み寄っていく。体を震わせて目を瞑るエルフの体に、リリィは両手を翳した。
「下位回復魔法!」
リリィの両手からは眩い緑色の光が溢れ出す。だがなかなか傷が塞がらない。
「足りないか……下位回復魔法! 増幅魔法!」
すると緑色の光は強まり、エルフの子供の体についた痛々しい傷は忽ちに消えていった。エルフの子供は傷の消えた体のあちこちを見回して不思議がる。リリィを見上げてはきょとんとしていた。
「お姉ちゃんは、オイラをいじめないの?」
その子供にリリィは自分を重ねていた。リリィも似たようなもので、魔物と人間のハーフ。そして人間に追放された身。そして恐らく魔物を嫌う魔族にも、人間や魔族を蔑む魔物にも良く思われない身であろう。
「そうだよ。ボクは君を……助けたかったんだ」
エルフの子供はぱっと笑う。
「ありがとう!」
「ねぇ、さっきの傷は誰にやられたの?」
エルフの子供は深刻な表情をすると、語り始めた。
「人間だよ! あいつら、オイラがエルフだからって……オイラは病気の母ちゃんのために薬草を取りにちょっと外に出ただけなんだ!」
とエルフの子供は激しく憤る。
「でも、人間は悪いやつばっかって聞いてたけど、お姉ちゃんは良いやつだ」
と無邪気に笑うあどけないそのエルフに、リリィは「そっか」と穏やかに微笑んだ。
「お姉ちゃんの名前、なんて言うの?」
「名前? ボクは……うーん、リリィ」
一瞬、入れ替わっているホヅミの事を思い出して、どちらの名前を言うのが良いのか迷いはしたが、事情を説明しても信じて貰えるかも分からないし、深く関わる相手でもなさそうだと判断したので、本名を口にする事にした。
「そっか!たすけてくれてありがとうリリィ。オイラは見ての通りエルフで、ソイって言うんだ!……それでなんだけどさ……お姉ちゃん、オイラ達の村に来ないか? オイラ達エルフ族はギリガタイ一族で、恩人は村に迎える様にしてるんだ。もちろんお礼にもてなすつもりだよ!」
考えるまでもなかった。夜が明けたら、町に入ることが出来る自分が、町へとが魔除けの道具を買いに行こうと決めていた。だがそうまでして、ホヅミと二人野宿を続けるのはリリィにとっても、もちろんホヅミにとっても精神的にもきついだろう。これから先の宛もない。エルフの村に二人の身を置いてもらえればと思慮する。
「ありがとうソイ……お願いがあるんだけど……もう一人仲間がいるの、その子も良い?」
「全然良いよ! お姉ちゃんの仲間なら大歓迎だよ!」
リリィはソイを連れて薄い霧の中、焚き火の灯りが浮かんでいる位置に向かって凸凹とした道を行く。しばらくすると焚き火の側で横たわるホヅミの姿が視認できた。リリィはホヅミの元に寄る。すやすやと眠るその姿に、リリィはほっとした。
「ホヅミん、起きて」
ホヅミの体を揺さぶると、ん〜と呻き声を漏らしながら重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。ホヅミが目を覚ますと、リリィとその隣からひょいと顔を覗かせる耳の切れ長なソイを何度か行き来する。リリィからはソイがエルフである事や他事情を聞くと、今度はソイを先導に、一行は林の中へと潜り込む。ホヅミは疑問に思い、白い霧について口にすると、ソイが反応した。
「この霧は、エルフの村に行くために必要なんだ。霧がないと、村への入口は見えないよ」
とソイが腰に差した木製のオカリナを手に取って二人に見せた。
「これを吹いて、入口を開くんだ。ほらあそこ」
ソイの指す箇所には、楕円型の緑色の靄が見えた。複数人は通れるくらいの大きさだ。
「あそこがオイラたちエルフ族の村の入口だよ」
緑色の靄にさしかかったソイは迷わず身を乗り出す。するとソイの体が半分が消えた。そして緑色の靄はソイの全身を呑み込んでゆく。その様子に二人は顔を見合わせて驚いていた。
「行こ、ホヅミん」
とリリィが先に思い切って緑色の靄に飛び込んだ。するとリリィはいなくなり、慌ててホヅミもリリィに続く。
そこは緑色の靄で出来たトンネルの様だった。前にいるソイはついてきた二人を見ると、オカリナを手に取り演奏を始める。綺麗な音を奏でていると思っていると、先には出口の様なところが見え始めていた。一行はやがて出口と思われるところに到達する。全員が通り切るまでオカリナを吹いてから、口からオカリナを離すソイは二人に元きた場所を見るように促す。すると緑色の靄は消えていて、何もなくなっていた。
「これがエルフルートの力さ……そしてここが、オイラたちエルフ族の村だよ。今は夜更けだから、あんまり騒がないでね」
くねくねと大きな大樹の数々が地面にずっしりと根を張っている。あちこちに木屋が立てられていて、それは大樹の上にまで建付けられていた。縄の代わりには蔓を用いられていて、大樹には蔓梯子や、大樹に木の板を取り付けて作られた階段が見える。ただおかしな点が一つあった。まるで魔物からの襲撃でもあったかのように、その地は荒れていた。木屋もいくつか崩壊していたりと、争いの痕跡が見て取れる。二人は不思議に思いながら辺りをキョロキョロしていると、ソイに声をかけられる。
「あそこ、見える?」
ソイはある上方を指した。そこにはポツンと明かりが見える。夜中ということだけあって、明かりが見えるのはその一点だけであった。
「あそこが村長の家だよ。二人を紹介するからちゃんとついてきてね」
二人はソイに連れられて、村の奥、上方に構える住居に足を運ぶ。周りには他のエルフ達も見えたが、皆がさっと逃げる様に家の中へと入り込んでいく。招かれざる客なのだろうか。大樹に取り付けられた階段は壊れかけていたが、思いの外しっかりとしていて、下さえ見なければなんて事はなかった二人。ソイは慣れているのか、スキップ気味にその小さな体で飛び跳ねながら階段を上っていく。先に着いたソイは上で手招きをするも、二人は大樹に体を寄せて落ちないように上ることしか出来なかった。
「二人とも、遅いよ」
気疲れした二人はソイに煽られて住居の中へと足を踏み入れる。
入口に吊り下げられた竹製の暖簾を潜ると、その先には大椅子が構えており、そこに居座る老エルフが重く垂れた瞼を少し持ち上げる。
「村長、ただいま戻りました」
ソイは立膝をついて頭を下げた。
「何やら笛の音が聞こえたと思いきや、ぞろぞろと連れてきおったな」
「はい、この方々はオイラの命の恩人なんです」
村長と呼ばれた老エルフは杖を頼りに、ぐっと体を大椅子から持ち上げる。
「きぇぇぇええいっ!!」
村長は二人に片手を向けると、家の中では強い旋風が巻き起こる。
「ままっ、待ってよ村長! このお姉ちゃん達は大丈夫だって!」
「ソイよっ! まさか忘れておるわけではあるまい! 我らの恩返しを仇で返しおった不届き者を! 喰らえぇぇえええっ、がはっ! おおぇっ! げほっ! ごほっほっ!ごほっ!?」
熱った村長は咳き込むと、部屋の中を渦巻いていた強風は止む。
「村長!」
ソイは村長の元に駆け寄り、体を支える。
「くぅ~、古傷が開きおったわい」
「村長! 血が、血が」
村長の吐血におたおたとするソイ。その様子を見ると、リリィは村長の元に駆け寄った。
「ちょっと、ボクに見せて」
リリィはお腹を抑える老エルフの手を退けて衣装を捲ると、そこからは痛々しい傷跡が見えた。
「今回復魔法かけるから……下位回復魔法!」
そう唱えると、忽ちにその痛々しい傷跡は綺麗さっぱり消えていく。
「ほら、治った」
「こ、これは……人間に助けてもらうなど……もらうなど」
重たい瞼をこじ開けて驚く村長はその場で腰を抜かす。
「な? オイラの言った通りだろ?」
「……お主……すまんことをした」
リリィは首を横に振って微笑んだ。
それから村長は再び大椅子につくと、改めてソイがリリィとホヅミの紹介をする。
「先ほどは失礼な事をした。ほんとうにすまない……それでなんじゃが……不躾な頼みで申し訳ないが、ちゃんとお礼はさせてもらう。じゃから、お主の力、もう少し貸してはいただけないだろうか」
行く宛のないリリィはこれからこの村でお世話になる事を考えるにあたって、断る理由もないだろうと話を聞くことにした。
「何かあったんですか?」
「ああ、実は」
村長の話によると、数日前に一エルフが恩人と称して三人の人間を村に案内した。お礼にと皆が三人の男をもてなしていると、その夜三人は一エルフからエルフルートを奪って勝手に緑の靄を呼び出したそうだ。そして外にて待機していたのだろうか、たくさんの人間がエルフの村に攻め入り、エルフを複数連れ去っていったとの事。回復魔法の使えるエルフは全て連れ去られ、傷を負ったエルフ達は薬草にて治癒を施しているらしい。エルフルートまで奪われてしまった今、いつ再び人間が襲ってくるやもしれない恐怖に、皆怯えているのだという。
「そこでじゃ、回復魔法の使えるお主に頼みがある。薬草だけでは先のワシの通り、回復に時間がかかるばかり。我らエルフ族の治癒を、どうか、どうか!」
「分かりました。でもその代わりなんですけど……」
リリィは事情を話した。これから先、行く宛もない二人は頼れるところに頼る他ない。
「ああぜひとも。いくらでもこの村に居てくだされ」
交渉は成立した。早速ソイに連れられ二人は村を廻る事となる。こんな状況だというのに、なぜソイは人間のリリィ達を村に連れてきたのか。それはソイも村を救うために必死だったからだ。ただ少し、心が純粋で警戒心が足りていないだけである。
「やぁ、邪魔するね」
「おい! 何考えてんだよソイ! そいつら、人間じゃねぇか!」
「おい人間! 俺たちをいったいどうする気だよ! まさかまたエルフを連れ去る気か!?」
怪我をして怯える二エルフの子供。子を庇って大怪我を負い寝込む母エルフ。その母エルフを庇うように足や腕に包帯を巻く父エルフ。
「この人が治してくれるよ」
「正気かソイ!? 何で人間なんかが」
「さっきだってオイラや村長の怪我を治してくれたんだ」
リリィが歩み寄るとまず前に立ちはだかる父エルフ。完全に怯え切っていて、体の震えが止まらないようだ。
「連れていくなら俺を連れていけ!俺ならまだ、労働力になるだろ!」
「落ち着いて、ボクはあなたを治しにきたんだよ」
「信じられるか!」
恨みを顕にした目線をリリィにぶつける父エルフ。リリィが近づくと後退ってしまう。
「じっとして! ソイ、抑えてて!」
「うん!」
とソイは暴れる父エルフを押さえつける。
「痛て! ソイてめぇ! 何しやがる!」
「いきます……下位回復魔法!」
リリィの両手からは眩い緑色の光が溢れ出す。あっという間に父エルフの体に負った傷は塞がってしまった。
「き、傷が……まさか、本当に……」
「言ったでしょ? 治しに来ただけだって」
それから続いてエルフの子供を治し、最後に重傷の母エルフを治す。重傷であった母エルフの時にだけ、リリィは増幅魔法を唱えた。
「まさか!? 増幅魔法が出来るなんて……一族にバイリングを行える者は誰もいないのに!」
「へへっ。回復魔法の増幅魔法は、出来てもあまり得意じゃないんだけどね。あと増幅魔法が出来るのは、得意の火炎魔法だよ」
驚く父エルフに、長い眠りから覚めきょとんとした表情で辺りを見回す母エルフ。それを見たエルフの子供は、元気な姿で母エルフに飛びついた。ソイ、ホヅミ、リリィ一行は木屋を出る。家族三人で一行を笑顔で見送るエルフ達。リリィは手を振ると、ソイに連れられ次の家へと向かう。
それから次々にエルフ達を治癒していくリリィ。ホヅミの体だと魔力が足りず、とても下位回復魔法だけでは治らなくて、増幅魔法を用いて治癒をすることが幾度もあり、そんなエルフ達を治していくうちに、痛々しい傷跡も目にしたリリィには、エルフ達を酷い目に合わせたという人間への怒りが募るばかり。
「これで最後ね……下位回復魔法! はぁ、はぁ………」
全てのエルフを治癒すると、リリィはふらつき倒れかかったところをホヅミが支える。
「大丈夫? 私、あんまり魔法の事分かんないんだけど、使い過ぎたら、大変だよね?」
「ま、まあね……はぁ、はぁ、少し、休ませてくれる?……」
その様子を見たソイは自分の家へと二人を案内する。リリィはホヅミの肩をかりて、ソイについていく。やがてたどり着くソイの家には、額に湿った布をのせて汗をかきながら苦しむ、一エルフの女が床に横たわっていた。
「オイラの……母ちゃんだ」
「じゃあ、はぁ、はぁ、治してあげなきゃ」
「いや、母ちゃんは……病気なんだ。下位回復魔法じゃ治せない」
ソイは母エルフの額にのった布を取ると、傍にある木バケツに汲んだ水につけて絞り、再び母エルフの額にぺたりとのせた。
それからソイは壁に立てかけた草編みの布団を床に敷く。ソイに促されて、ホヅミはリリィをそっと横たわらせた。
ホヅミとソイはリリィを残し、再び村長の家へと向かう。
「おぉ、戻ったか。それで、どうじゃ?」
「はい、村長。無事にエルフ族皆の治癒が完了致しました。今はオイラの家で休ませています」
「そうか……旅の方よ。ほんとうに申し訳ない。夜が明けたら、もう一方を連れて、我が家に参られよ。ご馳走を用意して待っておる」
そしてソイとホヅミは帰される。ソイは家に戻るついでに、村長から草編みの布団を二枚借りた。家には二人用しか置いていないらしい。二人はソイの木屋で草編み布団を敷いて、眠りにつくことになる。
二人は村長の家に訪れていた。
村長の居座る大椅子の前には大きな布が敷かれ、その上にたくさんの果物が並ぶ。
「どうかね? このエルフの村で栽培しておる果物じゃ」
一人お淑やかに果物を口にするホヅミを隣に、次々と口に果物を詰め込み飲み込みを繰り返すリリィ。
「ん!? ん、ん! んー!」
リリィは喉を詰まらせたようで、慌ててホヅミがリリィの背中を叩く。
「ごくり…………ありがとうホヅミん」
「リリィ、もっと落ち着いて食べなよ。果物は逃げないよ」
「ほっほっほ、そうじゃ、まだまだ果物はたくさんある。ゆっくりと食べなされ」
言われてリリィは食事のペースを落とした。
「さて、改めて! お主たちには感謝するぞ!」
村長は頭を下げる。それに合わさって、村長の付きのエルフ二人もその傍で深々と頭をお辞儀をした。
「それで気になっておったのじゃが、お主達はなぜあの様な夜更けに外を出歩いておったのじゃ?」
その問いに、リリィは手を止める。それについてはホヅミも気になってはいた。町に入らず野宿を選んだリリィには、きっと何か理由があるのだろう。昨日に見せたリリィの涙は、ホヅミの気がかりの一つだ。
「それは……」
リリィは焦りを隠せないでいるようで、目を動揺させている。
「お、お金がなかったの! ……そうそう」
「ほう、それであの様な所で……ほう、そうかそうか……」
と二、三度首を縦に振る村長。皺の伸びた顔で満面に笑みを浮かべた。村長の納得ぶりを見てリリィは安心した様子だった。
「いくらでもこの村にいなされ。お主達ならば大歓迎じゃ」
ホヅミはお主達という言葉を気に留める。昨夜一番活躍したのはリリィであり、自分は何もしていない。そう思うと少し居心地が良くない様に感じた。
かじりつくように果物を貪るリリィに対し、遠慮する様に食べるホヅミに気づいた村長は、どうぞどうぞと促す。だがやはり何もしていない事が、ホヅミ自身のたがを締める。
「ほっほっほっ。食欲がないのかの。まあそんな若者もおるじゃろうて。ん?」
村長の視線は二人から外れ、二人よりも更に後ろの方に注がれた。二人も気になって、入口の方に振り返る。するとそこには隠れ気味にこちらを覗く、エルフの子供がいた。
「何をしておる、客人が来ておるのじゃぞ」
「え、えっと……あの……お姉ちゃん達、ぼくやお父さんお母さんのケガを治してくれてありがとう!」
やけに緊張している様で、リリィとホヅミはお互いに顔を見合わせて、ふっと微笑。
「良いよ気にしなくて。助けたいって思ったからした事なんだよ?」
リリィは優しく言うと、にょきにょきとエルフの子供の後ろに隠れていた、更に複数のエルフの子供達が姿を現した。
「オレも! ありがとう! お父ちゃん、オレを庇って死にそうになってたんだ! ほんとにありがとう!」
「ワタシも、おばあちゃんを治してくれてありがとうございます!」
「僕も!」
「私も!」
「「ありがとう!」」
急に五エルフに増えて少し驚くも、改めてお礼を言われて頬を指で掻くリリィ。
「こらぁ! 客人が来とると言うとろうがぁ!」
場を弁えずに沸いた村の子供に叱咤する。
「わぁー!」
「村長が怒ったぁ!」
「みんな逃げろ!」
「お姉ちゃんをユウカイしろ!」
リリィは一エルフの子供に手を引っぱられて外へと連れ出される。
「ああ!ちょっと!ボクの果物……」
「クダモノは逃げないよ!」
その様子に口をぽかんと開けていたホヅミは、自分の服が引っ張られているのに今気づいた。
「ねぇ、お姉ちゃんも一緒に行こ? おじじつまんないよ」「おじっ!? おじっ!?」
「え? あ、えっと……私は……村長さんにお話があって……」
村長と何か話をしたかったという訳ではない。もちろん食事をしたい訳でもない。きっと、複数いたからだ。いじめを受けた時も、周りに複数いたからだ。またいじめを受けるかもと、恐怖を抱いてしまっている。もちろんこんな無垢なエルフの子供に限ってそんな事はないのだろう。人間不信というものなのかもしれない。そもそも人間でないのだから人間不信という言葉遣いは相応しくないだろうか。どちらにせよ、ホヅミは臆病になっていた。
「ねぇー、行こーよー。水遊びしよぉ?」
不意なエルフの女の子の発言に、我を失っていた村長が正気を取り戻す。
「こら、ホヅミどのが困っておるではないか!」
「えー……じゃあそのお話終わったら遊んでよ?」
「うん、分かったよ」
エルフの女の子はつまらなそうに木屋を後にした。ホヅミはそれを見送ったあと、村長の前に向き直る。村長はあからさまに異様に期待を乗せた目でホヅミを見詰める。
「さて、ホヅミどの。ワシに話があるとな? 何でも聞いてくだされ!」
肘を上下してうきうきとした様子の村長。ホヅミは聞きたいことなど何一つ考えていなかったのでまた困り始める。
「??」
村長はきょとんとした顔でホヅミを見続けた。ホヅミは一旦目を逸らして、ここに来た経緯を思い返してみる。そうして疑問に思った事ならば山ほどにあった。でもそれは日本で、異世界を基に作られたゲームやライトノベルを読んでいたので、凡そは対応出来ている。そもそも日本という別の世界から来た事を話そうか、もしくはその事自体に触れない様に質問を探ろうかと迷う。
「あの……あっ、そういえば……ああ、えと」
「そういえば?」
言いかけてホヅミは止めた。
このエルフの村に来る前に一度町に寄ろうとして、なぜか自分だけが町に入れなかったと言いそうになってしまった。これを村長に聞いてしまえば、リリィに申し訳がない。けれど内心ではとっても気になっていた。リリィが話してくれるのを待とうと決める。
ホヅミは言いかけたままで、このまま途切らせてしまうと返って失礼と踏んで、咄嗟に質問の路線を変える。
「そういえば…………ま、魔王……的なものっているんですか?」
ゲームやライトノベルの世界に慣れていたからか、軽い調子で魔王と発言をした。しかし村長には軽いどころか重く捉えられる。
「魔王……全ての魔物に君臨すると言われる存在。それを聞いて、ホヅミどのはいったいどうなされるおつもりじゃ?」
「え? いえ、特には何も……」
魔王を倒すだなんて意気揚々と勇者の真似事の様なものはするつもりはなかった。日本でのゲームやライトノベルの設定では、主人公が異世界に飛ばされる。最終的になんやかんやで魔王を倒すため旅をするみたいになる。ホヅミもそういったのは好きな方だ。憧れだった魔法だって使える。ただ、ゲームやライトノベルならだ。現実で魔王を倒すなどそんな危ない真似、正直したくない。
「ふむ。それが良い。魔王など倒そうなどと考えるものは、必ず死がつきものじゃ。それこそ、魔王討伐は勇者に任せておけば良いのじゃ。さて、魔王がいるかとの質問じゃったが、今まさに、この世では魔王誕生が騒がれているのじゃ」
ホヅミはゴクリ唾を呑み込んだ。
「数百年前にも魔王はいた。ワシが80歳の頃じゃったかのう。そのかつての魔王は勇者によって滅ぼされたはずじゃった」
ふとホヅミはエルフの寿命はいくつだろうと考えてみた。今の話によれば、少なくともこの村長は数百年も生きている。
「あの、村長さんって今おいくつなんですか?」
「? ワ、ワシか? ワ……ワシはの……そのぉ……笑うでないぞ?」
「は、はい」
顔を赤らめながら手招きをする村長に、ホヅミは耳を近づけた。
「ごにょごにょ」
「え? あ、そんなに。とても長生きでいらっしゃいますね」
「やぁ〜それほどでもですじゃ」
村長は頭を掻きながら照れる。
「話を戻そうかのう。かつての魔王が滅んでも、魔物は滅びんかった。勇者もその後姿を見た者はおらんと聞いた。それから数百年が過ぎて、新たに魔物が増えてきおった。更に強い力を身につけ狂暴になっていった。人間達は、魔物の討伐を対価に賞金を出す制度を作り出し、多くの強者を募り始めておったのぅ」
「へぇ〜、そうなんですねぇ」
話の流れから察するに、勇者はかつての魔王と相打ちになったと考えるのが妥当だろう。
「魔王は魔物を生み出す存在と言われておる。その魔物が近年あまりに増えて続けている。昔はエルフが魔物化する事もなかったのじゃ。それがエルフまでもが魔物化する様になってしまっての」
「それで、魔王が誕生したと」
「うむ。ともすれば、かつての魔王よりも強大な力を持ってじゃ」
話の流れからすると、かつての魔王は倒されたけども死んではいなくて、時を経て力を蓄えていたとも考えられる。
「そうじゃ。ワシもあの頃はの、めっぽう修行に勤しんでおった。ひとたび魔法を振るえば魔物は一掃。キラリ歯を見せれば、黄色い声が飛び交っとったもんじゃわい。あの頃はエルフもまだ大勢いたのぅ。若いピチピチのエルフがキャッキャと騒いどるところを眺めるのはワシの楽しみの一つじゃったわい。おおそうじゃ、このエルフの村から離れた所にオートロ洞窟という場所があっての。そこを住処にしておるパニックドラゴンが、理性もなく暴れ回って森をめちゃくちゃにしていると報告を受けて退治しに行った事もあったのう。それからほ……」
村長の話が長くなりそうで、ホヅミは先ほど子供エルフ達とリリィが出ていった外を覗いてみる。
「うわぁ! お姉ちゃんすげぇ!」
「おっきくてきれい!」
「生きてるみたいだ!」
リリィは得意気に火炎魔法を、子供エルフの前で実演して見せている。
「良いなぁー。オレ、風魔法と水魔法の体質だからなぁ」
「ワタシはまだ、魔法体質も分かってないの」
「どんな魔法だって、練習すれば凄くなるよ。そうそう、こんな事だって出来る」
言うとリリィの手元から立ち上る火炎が、形を次々と変える。炎の薔薇、炎の鳥、炎の手、炎の星。
「すっげぇ!!」
「わぁ、こんなの見た事ない!」
「ねぇねぇ! もっかい星やってよ」
「え? 星? ほ、ほらぁ!」(ヒトデだったんだけどな)
するとリリィは何か思いついたようで炎の鳥を作り出すと、魔法体質がどうのと言っていた子供エルフに寄った。子供エルフに何かを話して小さな手を取ると、炎の鳥の維持を子供エルフに任せたらしい。子供エルフは自分にも魔法が使えたと喜んでいる様だ。嬉々とした様子で、近くにいた親と思えるエルフに大きく自慢する。
「すごいすごい!」
そんなやり取りに気がついた周りの他のエルフにも笑顔が溢れかえる。子供エルフ達も笑顔で、そしてリリィも笑顔で、このエルフの村に来た時とは大違いに、愉しげな空気が流れていた。
「私って、笑うとあんな顔になるんだ」
ホヅミは鏡で笑おうとしても上手く笑えなかった過去を思い出していた。もしかすると"こんな形"でリリィと一緒にいれば、いつかは自然な笑い方を思い出せるのかもしれないと考える。
ふと音色が聞こえてきた。聞き覚えのある音色はエルフルート。その綺麗な音色に皆も耳を傾けている様だ。奥の方ではやはり緑色の靄がかかり始める。誰かが外からやって来るらしい。
「村長さん、緑色の靄が……誰かやって来るみたいですね……村長さん?」
村長は目を見開き、とにかく怖い形相をしていた。
「ホヅミどの。エルフルートというのは、エルフのために作られた笛じゃ。それぞれのエルフに持たされ、音色もまたそれぞれ違うのじゃ。その聞き分けを、ワシたち耳の良いエルフだけが出来るようでな」
村長は立ち上がると重々しい足取りで入口に向かう。
「あれは……仲間のエルフルートじゃ。それも、連れ去られた仲間の……じゃ」
「え!?」
ホヅミはあまりに衝撃を受けて声を失った。
村長はそのままゆっくりと階段を下りていく。お付きの二エルフも槍と盾を手に村長に続いた。緑色の靄はやがてトンネルの様に形作られていき、モヤの中からは影が複数浮かび上がる。
「へぇー、ここがエルフの村ねぇ。思ったのと違って、何だか寂れた村だな」
と毒づいて現れたのは高貴な衣装に身を包んだ大男だった。そしてそれに続き、鎧兜に武装した兵士がぞろぞろと現れでる。
「我は! ハイシエンス王都に住まう由緒正しき貴族なるぞ! ほれ! 出迎えはどうした」
貴族と名乗る大男は腰に手を当てふんぞり返る。下にはその場に向かう村長の姿が見えた。
「ほっほっほ……これはこれは王都の貴族様。いったいこの様な寂れた村に何用で?」
「何用? このエピルカ=シエンス様が来たというのに、出迎えは老いぼれと物騒な付き人が二人とは……」
「おのれ貴様! 我らが村の長を愚弄する気か!?」
付きの一エルフが槍を構えると、貴族のエピルカに付く兵士もぞろりと槍を構える。しかしエピルカは後ろに手を上げてそれを諌めた。
「これはこれは村長どの。実はですな。このエピルカ=シエンスの耳にですな、良い情報が入りましてね」
「ほほ、それはいったい如何なる情報でしょうや」
くるりとうねったちょび髭を弄りながら辺りを見回すエピルカ。
「この村には、まだ良い玩具がたくさんと残っていると耳にしましてね」
「貴様ぁ! まさか我らエルフを連れ去る気か!!」
と村長は今にもエピルカに飛びかかりそうな付きエルフを手で制す。
「ほう、それで」
「ふん。それでですな、このエピルカ=シエンスのために、幾人か寄越してはくれないだろうか? 最近では退屈が極まり、私の心が疼くのです! 私の渇きを潤すそんな逸材が欲しい! ……しかし、人の玩具ではダメだ……簡単に壊れてしまう。そこで、ここにたくさんの壊れにくい玩具がいると耳にしましてね……国の陰では大反響ですよ。良き玩具がたくさんこの村で取れたと」
「……………………」
「そうですな。村長殿、この村には、おなごは後どれだけ残っておられる」
「……貴様の様な下衆に……一エルフとして渡すものか!…………中位風魔法!!」
詠唱がなされ村長の周りには風が纏わりつく。そして村長が両手を空へ大きく振り上げると同時に、地面から突風が吹き上げた。
「戯け、上位風魔法!」
貴族エピルカの詠唱と共に、目にはっきりと見える程の風の塊がエピルカ自身の体に巻きつき、空にかざした右手を大きく下に振り下ろす。すると視覚化した竜巻が空から村長を地面に叩きつけた。
「ぬぉぉぉおおおーっ!!!」
手も足も出ない村長の頭をガシッと足で踏みつけるエピルカ。
「はっ! 風の魔法でこのエリート貴族のエピルカ=シエンス様に勝てるとでも思ったか」
ガリガリと強く村長の頭を踏みつけるその様に、憤慨した付きエルフがエピルカに飛びかかる。
「貴様ぁー!!」
「そこになおれぇーっ!!」
「鋭利な旋風」
詠唱と共に目に見えない刃が、村長の付きエルフの体を切り裂いていく。
「ぐぁーっ!」
「ぎゃぁーっ!」
最後に思い切り村長の頭を踏みつけたエピルカは、その場から離れて適当な木屋に向かう。
離れた木陰で子供達と隠れていたリリィはその光景を見て、いてもたってもいられず走り出した。
エピルカは次々と木屋を覗き、自分の楽しみに利用するエルフを探す。
「いたいた、ここにいるではないか」
「やっ! 止めてよ! 離して!」
エピルカは嫌がる女エルフの腕を引っ張り木屋から引きずり出す。
「これ、大人しくしろ!」
「助けて! 誰か! リリィ様!」
女エルフは強く出る。
「リリィ? 誰だそれは……」
「リリィ様なら、お前なんて一捻りよ!!」
「ほぅ……ならばそのリリィとやらを呼んでみるとしよう。さぁリリィ様! どうかこの私から、この女エルフの命を救いたまえ! リリィ様! リリ……ん?」
すると横から火の塊が飛んできたと思った瞬間、それはエピルカの顔にぶつかり
「ぐあぁぁあっちゃちゃちゃちゃァァァ!!!」
女エルフを掴んだ手を離して燃え盛る自分の顔を慌てて叩きながら家を飛び出ると、先の床が途切れているのに気が回らずそのまま地面に落下してしまった。顔も体中も痛そうに悶絶をするエピルカ。
「誰だ! 無礼者! 良くも! 良くも私の顔に! っどわーっ!!??」
次にエピルカへと向かってきたのは、先程のとは比べ物にならない程の大きな火炎。エピルカは慌てて横に飛び退いた。
「何だ今のは、火炎系上位魔法、ジェラリーバか??」
「リリィ様!」
その場に座り込んだ女エルフは両手を合わせてリリィを拝む。
「ほう、いる所にはいるな……上玉が……よし、決めたぞ。私はお前を持ち帰ろう」
「良いのですか? あれは人間ですよ?」
後ろから駆けつけた兵士に、座り込んだエピルカの体は持ち上げられる。
「良い! あれほどの魔法をうったのだ。面白い。白い肌に白い髪。無垢な瞳に凛とした顔立ち。良い良い!」
「何が良いだコラァ! 天に召される覚悟は出来てんのかクソ野郎!」
ソイと出会ってから、傷ついたエルフ達を見て溜まりに溜まった怒りを爆発させるリリィ。エピルカは衣服を叩いて砂埃をたてると、ちょび髭を整える。
「覚悟? 貴様がこの私に勝てるとでも?」
エピルカは胸を張り、後ろで両手を組んで自信に溢れた態度を取る。その表情までもが高慢で、リリィを舐め回す様に見回している。それにリリィはますますと、メラメラ怒りを煮え滾らせてその場に立つ。そんな二人を、ホヅミは怯えながら木陰でこっそりと見守るしか出来ないでいた。
風が吹いた。二人の間を小さな木の葉が通りすがる。瞬間、互いの詠唱が始まった。
「下位火炎魔法!」
「上位風魔法!」
「下位火炎魔法! バイリっ…きゃあっ!」
リリィは伸びた竜巻に後ろへと突き飛ばされ、木屋を突き破る。
「ふっ、なるほど……増幅魔法を唱えようとしたな?……面白い。何なんだこの玩具は! 欲しい! なぜ組織はこの様な玩具を放って置いたのだ」
エピルカは突き飛ばされたリリィの元による。ホヅミの目線では、埃の舞う木屋の中に、壁に背中を張り付け怯えているエルフの子供が見えた。
「リリィ様! 頑張って!」
「ん? 目障りだガキ」
「ひっ!?」
エピルカはエルフの子供に手を翳す。
「バイ……リン…グ……まだ炎は消えてないよ!」
「ぬっ!?」
木屋からは大きな火炎が噴出される。エピルカは慌てて身を躱そうとするが間に合わない。
「下位風魔法」
エルフの子供に向けていた手を足元に伸ばして詠唱すると、その風によってエピルカの体は横に吹き飛ぶ。よってリリィの下位火炎魔法・倍は躱されてしまう。
「まだ……まだ…下位火炎魔法、下位火炎魔法、増幅魔法」
「させるか! 鋭利な旋風」
鋭い風の刃が幾重にも重なり竜巻を形取る。それはリリィの放った下位火炎魔法・倍さえ引き裂き、勢いは止まずにリリィへ向かって飛んでいく。
「きゃああああ゛あ゛っ!!!」
肉を引き裂く音が聞こえた。木屋の屋根は吹き飛び、赤い飛沫が上がる。
「リリィ、リリィ!?」
思わずホヅミは声を出してしまった。が、エピルカに気付かれる事はなく。それほどに自分を脅かすリリィに夢中だったのだろう。
「ちっ、ちとやり過ぎたか。壊れてはいまい?」
ゆっくりとエピルカはリリィの元に歩み寄る。エピルカは木屋の中に手を伸ばすと、リリィの胸元を掴み上げる。リリィの姿は風の刃に無残に切り裂かれ、痛々しく血だらけになっていた。
「う………うぅ」
「まだ息はあるようだな……おいお前! 帰る途中でこいつを治しておけ」
と放る様に、付きの兵士にリリィを渡す。
「は、は! しかし、この傷、我ら兵士の中に治せるものはいません!」
「全部治さなくて良い。死なない程度にだ。封魔錠もかけておけ。魔法を使われると面倒だからな」
エピルカは肩の凝りを解す様な仕草をする。そして去り際に邪悪に口元を歪ませて微笑む。ホヅミはそれを見たまま何もする事が出来ずにいた。固まった体に動け動けと命令しているにもかかわらず、ぴくりとも動かない。けれど例え動いたとして、ホヅミには何も出来ないだろう。木屋の中にいるエルフの子供も震えながら、唖然として何も出来ずに腰を抜かしていた。
再び笛の音が聞こえた。緑色の靄のトンネルは姿を現し、エピルカとその付きの兵士達はその中へと潜り込んでいく。やがて笛の音色は途絶え、緑色の靄は空中にさっと霧散した。
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