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「…ス。…クス。…ジクス!」
誰かを呼ぶ声で、目が覚めた。命を落としたはずの裕翔はゆっくりと目を開けた。
そこには、知らない男女の顔があった。
「ジクス!!良かった…。」
女が安堵の声を漏らす。
男の方もでかかった涙を拭っていた。
疑問だらけの頭を整理しないまま、重い体を起こした。
「ジクス…お前はどれだけやんちゃをすれば気が済むんだ!こんなに母さんと父さんを心配させて…」
「…?」
違和感を覚えたまま、男女の会話を聞いていたが、そこに老人が謎の箱を持って入ってきた。
「お体が強くてよかった。命に別状はございません。ジクス様。お加減いかがですか?」
どうやらジクスと呼ばれているのは自分であることに気づいた裕翔は取り敢えず頷いた。
「それは良かった。」
「ありがとう。さすが名医だな。ご苦労だった。下がって良い。」
老人が頭を下げ部屋から出ていった。
裕翔は混乱したまま、頭を抑えていた。
「どうしたジクス?まだ痛むか?」
「それもそうでしょう。崖から落ちてしまったのです。無事なことが不思議なくらいなのですから。」
崖から落ちたという言葉に冷や汗が出た。
男女の会話を大人しく聞くことにした。
「それにしても、明日はダイアナの誕生日会だ。ジクスも参加をして、姉様を喜ばせないとな。」
手を叩いて女が言う。
「それもそうです。一国の王女の誕生日会なのですから。」
「お、王女…?」
聞きなれない言葉をつい声に出してしまった裕翔。
それを聞いた男は問いかける。
「なんだ?記憶が曖昧なのか?なら説明をしよう。明日は我が国の第一王女ダイアナの誕生日だ。そして、ジクス。お前は第二王子だ。私の愛しい息子だよ。思い出したか?」
そういうと、微笑んだ顔で男女は部屋を出ていった。
痛む頭を抑えていると、体験したことの無い記憶が一気に流れ込んできた。
「…なんなんだ。これ。俺は死んだはずなのに…王子?ジクス?俺は一体誰と間違われてるんだ?」
流れ込んできた記憶をまるで物語を読むように思い出していった。
自分が国の第二王子であること。
さっきの男女が王と王妃であること。
そして姉と兄が1人ずついること。
そして…この世界が、
姉がプレイしていたゲームの世界であること。
実際にプレイしたことがないと言うのに、攻略本のような情報量が記憶されていた。
「…一体全体どうなっているんだ?」
無駄に豪華な広いベッドにもう一度横になり、
記憶を読むことにした。
まずは自分について知ろうと、ジクスについての情報を探した。
しかし、他の人のプロフィールやら顔やらは思い出せるというのにジクスについての情報が一切なかった。
「…どういうことだ?ジクスだけないって、じゃあ俺は…」
疑問に思っていると急に部屋の外が騒がしくなった。
部屋のドアを勢いよく開け、執事の様な服を着た若い男性が入って来た。
「大変ですジクス様!!ダイアナ様が!!」
焦った様子から上手く説明ができないことが分かり、震える執事に連れられ少し離れた一室に入った。
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