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「……独立」
「まあ、お前の場合、あと十五年くらいはかかりそうだけどな」
「それって、やっぱ俺は凡人って感じですか?」
「お前の人形好きは十分非凡な変態の域だろ」
「……それはどういう」
「初めて会った日、覚えているか?あの日の松永が一番喋っていたかもだな」
あの日……。俺は、ジロー・九十九の展覧会を観て、衝撃に近い気持ちの揺さぶりを感じた。その勢いのまま、アトリエ・ジローに来て、アポもなくインターフォンを押した。ジロー先生は、ただの学生の俺の話を聞いてくれた。
俺は、大学に入ってから何を作ればいいかずっと迷っていた中、ジロー先生の人形を見てこれだと感じた思いを必死に話した気がする。でも、その時、先生はこう言った。
『キミ、顔いいから採用。バイトで来れる?』
俺は教室に通うつもりだったが、教室でアルバイトをしながら教えてくれるという話に二つ返事で承諾した。
「あの時、僕ね、嬉しかったんだ。僕の作品そのものに衝撃を受けたという松永の気持ちがね。特に075号を気に入ってくれたでしょ?あれは特別なんだ。僕にとってね。何度となく母親を象った作品を作っているが、あれが今のところ母の最終形だ。僕のなかの歪な感情を含んだコケティッシュ・ガールの形」
初めて聞く先生の人形についての裏話。
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