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俺と長沢は現在、人形作家のジロー・九十九のアトリエ制作スタッフとして働いている。俺は4月から大学3年、長沢は服飾系専門学校の研究科に進む。秋の大きな展示会に向けて学業と並行して制作をこなしている。 忙しいが嬉しいことこの上ない。今回からなんと、アトリエ・ジローとしての作品の一部をデザインから任されたのだ。服飾担当の長沢と組んで人形を作っているので、その打ち合わせ中。メシ食いながら。ちょっと飲みながら。この春休みは集中して制作するチャンスなのだ。 タイ料理の店は独特の香辛料の香りが俺は結構好き。シンハービールも大好き。タイのビールはラベルが可愛いと思う。 「生春巻きは2個ずつだからね」 長沢は釘を刺す。俺は一人っ子だから競争して食べ物を取り合いしたことはない。長沢は姉と今でも取り合いをするらしく、好きなものは初めに確保したくなるようだ。 「そんなに好きなら3個食べていいよ。俺、パッタイのが好き」 「マジっ!やさしー。松永やさしー。でもパッタイはボクも好きだから残しといてよ」 二十歳そこそこの若者の食欲は底知れないのだ。長沢は昨年二十歳になってから、お酒も飲めるようになったが、甘いミルクティーが好物と言うだけあって、甘いカクテル系を少し飲むくらいで、食べる方が好きらしい。美味しそうに生春巻きを頬張る長沢。清々しいほどの食いっぷり。
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