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楠瀬あずきは僕の好きなヒト。
彼女の家族と僕の伯父との関係が悪化して縁談が立ち消えになったが、簡単に諦められるものではなかった。初対面から彼女の動向をうかがっていた。
彼女は父親が好きだった。急に亡くせば更に想いは強くなる。
2年前sun&moonで働き始めるまで彼女がしたアルバイトは、単に小遣い稼ぎの単発か料理に関係ないものだった。
だけど何かが変わった。
スイッチが入った感じ。
彼女がそこでかなり本気で働いていると報告を受け、予感がした。
これ以上は待てない、放っておけない。
もっと外堀を埋めてから行こうと思っていた。僕が万端な準備もせず感情のままノープランで赴く相手は、いつも、彼女だ。
「お久しぶりです。楠瀬さん」
「はい?」
テイクアウトカウンターを片付けてる最中の彼女に声をかけた。自分の名を呼ぶ客に不審な目を向け、瞬時に僕の顔が伯父とリンクしたのか露骨に嫌な顔になる。
「…叔父の親戚の美園さんでしたよね?」
「はい」
「生憎お弁当は売り切れましたよ」
「お弁当じゃなくて貴女に会いに来ました」
「!!私の事調べたんですか!?貴方との縁談もなくなったし、もう関係ないですよね?」
彼女が喧嘩口調になるのは想定済みだ。
「ええ、家は関係ありません」
彼女は不機嫌な顔を崩さず店じまいの手を止めない。
「…」
「僕が個人的に会いたくて来ました。話があるのでお時間頂けませんか?」
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