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彼は私を追っかけて、この近くに住んでいるのでお箸はいらない。汁漏れしないよう整えて弁当容器ごと渡すと、彼は受け取りマイバックに入れた。
「最近暑いせいか、僕が来る時間にカレーが完売してますね」
スマホで支払いを完了した後去らずに、眼鏡を鼻の頭でかけ直す仕草は、お喋りを楽しみたいという彼の合図だ。
「真一さんのカレー、スパイスが絶妙で人気ですから!」
「…なぜ貴女が自慢気に言う?」
若干呆れ顔の聖夜さんに、私は更にドヤ顔で
「だって自慢の味、自慢の店長ですもん!」
胸をはって答えた。
夜のお客さんが一段落したのを確認した私は、未だ二つ残っている日替わり弁当をまとめ、テイクアウト販売カウンターを片付け始めた。
庭カフェsun&moonがあるこの辺りは、大体この時間になると人通りがパタリと止む。
聖夜さんはわざと計ってこの時間に来店する。
細かいというかメンドクサイ。
そして変わり者、それが美園聖夜さん。
彼に初めて会ったのは私が中学2年の終わりの頃。当時、実家に両親と私、姉と兄、家族5人で住んでいた。
下校途中もうじき家に着くという所で、電柱の陰から声をかけられたのだ。
「…楠瀬さん?」
「はい。そうですけど」
私が馬鹿正直に答えたのは、彼が真面目そうな身なりだったからだ。
今と変わらない縁なし眼鏡に、白いシャツをズボンにインしてベルトをキュッと締めたイデタチ。髪型も大して変わってない、後ろに撫で付けてあった。
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