76人が本棚に入れています
本棚に追加
「…母を呼んできましょうか?」
私はうつ向いていた顔を上げ上目遣いに、さっきから顎を支え考え込んでた彼の顔を見た。
「いいえ、結構です。貴女が聞いてないなら仕方ない、今日のとこは帰ります」
そう言って私に一礼し、踵を返して数歩行った先で体ごと振り向き、
「…これだけは伝えときます。僕は貴女が良かった」
何故か彼の顔が赤い気がする、気のせいかな。
「はあ」
彼とうちの家族の間にあった詳細を知らない私は、狐につままれた様な気の抜けた返事で彼を見送ったのだ。
当然私は家に入って早速、母に報告し問い詰めた。
「あら、もう立ち消えたのに…」
母は難しい顔をしながら彼と私の関係を話してくれた。
淳也叔父さんがセッティングした美園聖夜さんと恵海お姉ちゃんの縁談は、姉の都合で破談になった。しかし大財閥、美園家のサポートを得たいお父さんは、代わりに未来の婚約者として私をどうかと提案したという。
「ええっ~そんな勝手に」
私が今更文句を言うと、母は苦笑いしながら
「大丈夫、その話は無しになったから。逆にもし又聖夜さんが来たら私から一言言うわ」
そんな経緯があった後、我が家に様々な出来事がおこり露見した。だから聖夜さんに次に会ったのはだいぶ後のことだった。
最初のコメントを投稿しよう!