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自分が好意を寄せる女性が、男盛りの異性と同居しているのを笑って認められる程、僕は大人じゃない。
だから毎晩のように様子を見に行っている。彼女達に変化がないのを感じ取り、安堵する日々。
早くも公園内の路面に水溜りが形成され始め、僕はそれを避けながら足早に通り抜けた。
☆
…イブ未だあんな事言ってる。いい加減理解してくれてもいいのに。
雨あしが強くなりそうなので戸締りをしっかりしながら、そう思った。
今夜、真一さんは家族と食事会だ。
海外から一時帰国した弟家族もいるので、ゆっくり話がしたいからとサーブする側からされる側を選んだ。
『すまん、あずきちゃん仕込み宜しくな』
店の事は気にせずゆっくり寛いで下さい、と言う私に
『有難う。メニューのリサーチ兼ねて行ってくるわ』
と照れくさそうにこめかみをかきながら笑った。
コックコートを脱いだ真一さんの背広姿は、めちゃくちゃ格好良かった。
彼の味を知ったのは、私が高校3年の春。
その時既に父は他界しており、自分の将来どうするかを真剣に考えねばならぬ時期にさしかかっていた。姉や兄程優秀じゃない、私にあるのはズバ抜けた味覚だけ。
幼少期から父と共に様々な料理や食材に触れてきたから、食べるのも調理するのも好きだった。子供たちの中で一番父に顔立ちが良く似てるのは私、姉と兄は母に似た瓜実顔。
体型も然り。
姉達は母と同じで、いくら食べても代謝がよくシュッとしている。私はといえばパンダに似た体格。往年の父は良く言えば恰幅の良い紳士、悪く言えば狸腹のオジサンだった。
それでも私は父が好きだった。
この頃、無性に亡き父の手料理が食べたかった。
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