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「まだ死んだことに気づいておらんのか、もしくは認めたくないのか」
「未練があるってこと?」
「そうじゃ」
男子学生の霊は耳にイヤホンを付けていた。この道はコンビニもあるせいか車の交通量が割と多い。とは言え田舎道なので、学生の中には油断して音楽を聴きながら自転車通学している者もいるのだろう。おそらく彼はそれで、接近した車両に気づかず交通事故に遭ったのだ。若者の突然死は、未来が長いだけにとかく未練が残りやすい。
その道を、男子中学生がスマホをいじりながら自転車で通過しようとしていた。ノロノロとした速度で、花束の置かれた場所を通過しようとしたその時、突然霊が男子中学生の襟元をグイッと引っ張り、ブレーキを踏んでいないのに自転車が停止して、彼はそのまま車道へと横転した。
「あっ!!」
幸い交通量の少ない時間帯だったので接近する車も無く、彼はすぐに自ら起き上がり、落としたスマホを素早く拾って恥ずかしそうに自転車で走り去った。
その後ろ姿を、血だらけの霊はじっと見送っている。
「ああやって時々、自分のような者を増やそうとしているのじゃろうな」
「何で?」
「寂しいのか、はたまた悔しいのか……」
こんな霊を見たのは忌一にとって珍しいことでは無かったが、それに答えらしきものを貰ったのは初めてだった。今までこんな状況を見つけたとしても、誰かとそれについて語ったことはないし、どうしてそんなことをするのかも検討がつかなかった。
だがこの子島といれば、幽霊や異形を見つける度にそれについて話し、彼の長い経験からくる見解が聞ける。それが忌一にとって心地良くもあり、心強かった。やはりよくわからないものにはずっと恐怖が付きまとうが、知ることで少なからず恐れが和らぐような気さえする。
これまでの忌一は小学生時の事件もあって、極力他人との関わりを避けてきた。そんな忌一に養父母達は優しく接してくれたが、彼らに望まれない限り、自発的には見えないものの話はしない。
関わりを避けるのは、霊や異形に対しても同じだった。高校生時に深入りした霊がいたことはあったが、彼らと話が出来たとしても正体のわからないものには恐怖が付きまとう。そして彼らと話しているところを見られれば、それが見えない者には恐怖を与えてしまうので、自分にとって得はない。
そんな孤独な生活を送っていた忌一にとって、いつしか子島は心を埋める存在となっていた。しかしそんな二人の生活も、あっという間に二年の時を迎えようとしていた。
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