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全世界がたった数か月で一変した。夏でもマスクを付けて外すのは食事の時のみ、お店や学校に入る時はアルコール消毒や検温が当たり前になり今までの日常がなくなっていった。
海外ではハグの習慣が無くなりその外国に行くのは簡単な事ではなくなってしまった。
そして私、久住友香の通う藤咲高校でも同様で文化祭がなくなり体育祭もなくなり、部活では対外試合がなくなってインターハイさえなくなってしまった。
先輩たちは涙ながらに引退する事になって何と声をかけていいのか分からなかった、ただ最後の大会もなくなってしまい見えないウイルスへの怒りをぶつけることも出来ずに引退何て悲しいし虚しいのは痛いほど分かるのは、自分たちも来年どうなるか分からない以上先輩たちと同じ様になる可能性にあるからこそだ。先日形ばかりの紅白戦をして先輩たちの引退試合としていよいよ私たち二年生の主体となった。
そんな時にうちの学校に教育実習の先生が来ることになった、閉塞感の続く学校生活の中で久々に出た楽しみなニュースでどんな人が来るのか話題にしている事も多かった。
いざ来てみたら先生は二人で二人とも男の先生。その中でも女子から圧倒的に人気があったのが川端成貴先生。まずイケメンと言う所で皆かっこいいと言っていた、陸上の短距離選手の経験から部活指導しているのを見に陸上部に行く生徒もいたくらい。それでいてノリも良くて接しやすいのもあって人気が高かった、ただそのノリがいいのが軽くもあって女の子はちゃん付け、男の子達は呼び捨てだったりと先生と言うよりも友達に近い雰囲気があった。
もう一人の新井尚史先生もかっこいい方だと私は思う、確かにマスク外したらちょっと残念な感じもあるけど。でも川端先生とは違って話をしている時でもちゃんと丁寧に聞いてくれる所が皆も話しやすいみたいで新井先生の周りにもよく生徒がいたし、どの生徒にもきちんとさん付けで呼んでるのも先生らしくて尊敬できた。
新井先生は大学でもバレーボールをやっていることから放課後のはうちの女子バレー部に指導で来てくれてもいる、うちの学校には男子バレー部がないのでそこはラッキーっと部員皆で喜んだ。そりゃ年の近くてそこそこかっこいい先生がいてくれればやる気も出る、それに新井先生はスポーツで名門大学の明観大学でレギュラーを取るほどの実力者と言うのを聞いてより一層楽しみにしていた。
それは私も同じで丁寧に教えてくれる所や実際にプレーしている姿にすっかり心奪われていた、多分先生が来た初日にキャプテンの絵梨と一緒に挨拶に行った時から気持ちはあったと思う、副キャプテンになったばかりで役割の不安があった時で挨拶してすぐに「大変な時で皆を引っ張ってかなきゃいけない役目だから大変だよね、精一杯お手伝いしますから何でも言ってね。」とこちらを気遣ってくれたのが嬉しくて素敵な先生だなとときめいていた。制限のある部活動の方針もしっかりと定まっていない中で絵梨も私も不安が付きまとっていたを分かって貰えて嬉しかったのが大きかったと思う。
今日も無事に部活が終わりクールダウン、片付けを終えて皆で部室に帰って着替え始めていると部室の扉をノックされた。
コンコン
「終わった後にごめんね、柿沼さんいる?」
扉の向こうから聞こえてのは新井先生の声、呼ばれた絵梨は今日家の用事で部活が終わって早々に帰っていていなかった。
キャプテンの絵梨が呼ばれたと言う事は変わりは副キャプテンと自動的になるもので皆の視線が私に注がれる。それに従う形で部室から出る、幸い着替える前でソックスを脱いだだけなので直ぐに外に出れた。多分この格好もあって皆は私に出るように促したのもあったかな。外に出ると絵梨じゃなくて先生はびっくりしてる感じだった。
「すみません、絵梨用事あって帰っちゃってて。」
「そうなんだ、じゃあ久住さんにお願いしてもいい?今度の土曜に乃原商業と練習試合決まってうちに来て貰う事になったんだ、それで乃原商業来る前に控え室とベンチの消毒とゴミ箱の準備皆にお願い出来る?」
「分かりました、明日絵梨にも話しておきますね。」
「よろしくね。コートの準備もあるからそこらへんの割り振りは久住さんと柿沼さんに任せるから。膝どうかした?」
新井先生の目線の先の私の左膝にはテーピングがしてある、前に筋を痛めた事があったので予防でしているが痛めたのはもう何年も前の事。
「これ中学の時にちょっと痛めて、今は全然大丈夫なんですけど予防で。」
「チームの中心なんだからあんまり無理しないでね。」
最後に気遣ってくれてニコッと笑って返してくれる新井先生、絵梨がいなかったおかげで話す機会増えて良かった。マスクしているから口元見えないのが私的に惜しいけど笑った時の目尻のシワがちょっと可愛くてまた良い。
新井先生と入れ替わる様に部室に来たのはマネージャーの純奈、ポットやボトルの洗い物が終わって帰ってきた所だ。使うもの全てにアルコール消毒が必要になって純奈の仕事が大きく増えて大変になっていた、皆で手伝ったりしているけどやっぱり大変みたいでクラスで一緒にいる時も愚痴っていた。
「新井先生どうしたの?」
「今週乃原商業と練習試合決まったから使う所消毒して欲しいってお願いに来てた。」
「えー、また消毒増えるの?」
「大丈夫だよ、皆で割り振ってやってって言われたから純奈の仕事は増えないから。」
「ならいいけど。」
少し不満そうに答えていた純奈だったけど、急に笑顔になって話を振ってきた。
「それで、新井先生とは他に何話したの?」
「それだけだけど。」
「噓ばっか!新井先生めっちゃニヤニヤしてたよ。」
「そう?最後ニコッぐらいはしてたけど。」
「だってすれ違った時めっちゃニヤニヤしてたもん、新井先生も友香の事好きなんじゃない?」
「そんなん、先生は分かんないじゃん。」
「んふふ、今先生はって言ったー!やっぱりね、新井先生推しとか言う時から怪しいとは思ってたけど。」
図星を言い当ててそのまま部室に入っていく純奈に「違う!」と否定の反論をしようとするけど聞いてくれる気配はない。当たってるけどそんなストレートに気持ちを暴かれたらこっちは動揺してしまう、それでいて新井先生が私との話の後にニヤニヤしてたと言う事実が心を浮足立たせているのは確かだった。
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