Mの向こう側

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ただ時間が過ぎるのは早くて先生達の実習期間の終わりまであと三日と迫っていた、そもそも今日の期間が三週間しかない上にこのご時世で話せる時間は限られてる。 短い時間だししっかり話せたのなんかホントに数回だったと思うけど新井先生への気持ちは気になるから好きになって、実習期間が終わって会えなくなるんだと思ったら喉がつかえるみたいに体が先に嫌だと反応を示してた。 そんな時に純奈が持って来たのはタイムリーなニュースだった。 「友香!隣のクラスの千夏ちゃん川端先生に告ったんだって!」 「マジ?千夏ちゃんって陸上部の?」 「そうそう。で、どうだったと思う?」 興奮してる純奈は楽しそうな感じもあったのできっとOK貰ったのだと思った、上手くいってて欲しい私の希望もあった。 「それが・・・ダメだったんだって。」 「そうなの、じゃあなんでそんな楽しそうだったの?」 「それは友香の気のせいじゃない?川端先生彼女いるからダメだったみたい。」 「あー、川端先生かっこいいもんね。彼女居ても当然か。」 「そうだよね、でも新井先生はまあまあだからチャンスあるかもよ。」 「それって新井先生軽くディスってるよね。」 私を励ます純奈の言葉は若干引っかかる物があったけどそんなのは今どうでもいい、千夏ちゃんの事は残念だしそれを聞いたら私もダメかなと思ってしまう。 新井先生は川端先生よりかっこよくないと皆言ってるけど世間一般から見たらかっこいい分類に入ると思うし、内面っも含めた総合的な判断だったら新井先生が付き合いたい人は多いと思う。そうやって新井先生の方が良い人だと考えれば彼女がいても当然だと思う。千夏ちゃんが上手くいかなかった事を考えるとマイナスな考えしか浮かばなくなってくる。 「友香は告白しないの?」 「・・・たぶん新井先生にも彼女いるよ。」 「それは聞いてみなきゃ分からないじゃん。」 「だってめっちゃ性格いいんだよ?大学何て出会い一杯あるから彼女いるでしょ?」 「だから聞いてみなきゃ分かんないじゃん。新井先生部活出るの今日で最後なんだからさ、どうすんの?」 「どうすんのって、わざわざ傷つきたくないもん。」 「まだ彼女いるかも分かんないのになんで弱気なの?今日の部活で私が彼女いるか聞くから、いないって言ったら告白ね。」 「そんなん皆の手前いないって言うパターンもあるじゃん。」 「あっ!そうだ今日最後の時に色紙書いて渡そうよ、こないだの練習試合の時皆で撮った写真もあるからそれ貼って。絵梨にも話してくるねー。」 無理やり話しを押し通して話した純奈は私の話を聞くこともなく別のクラスの絵梨に会いに行ってしまった。 あれだけ強気の純奈がマネージャーなのが不思議になってくる。そんな急に言われたって千夏ちゃんのダメだった事例聞いた後にどうやってポジティブに考えたら良いものか、彼女の有無よりもそっちの思考能力を教えて欲しかった。 純奈の考えは絵梨も賛成して今日の部活前には皆で色紙に一言ずつ書いて真ん中には皆で撮った写真を貼ってある。「先生頑張ってください。」「短い間楽しかったです。」と皆の一言が並ぶ中で私は「沢山教えて貰って勉強になりましたし楽しかったです。ありがとうございました。」と当たり障りない言葉にとどめておいた。中には「卒業したら付き合ってください!」と熱烈な言葉の後輩もいたけど流石にそこまでは出来なかった。 部活はいつも通りに練習メニューをこなしていき無事に終わることが出来た、最後に顧問の先生の総括が終わってその後に今日最後の新井先生の挨拶になった。 「今日で女バレの指導は最後になります、短い時間でしたけど勉強になりましたしとても楽しく過ごせました。まだ明後日までいますので残りの二日間教室でしっかり教えられる様に頑張ります、三週間ありがとうございました。」 新井先生の挨拶に皆から拍手が送られる、その拍手の後に絵梨は用意してあった色紙を渡した。 「短い間でしたけどご指導ありがとうございました!」 「「ありがとうございました!」」 渡してお礼を言う絵梨の後に続いて部員一同挨拶をする、体育会系の挨拶のお決まりみたいなものだ。色紙をもらった先生は驚きつつも喜んでくれていた。 「色紙くれるなんて思ってなかったからびっくりしたよ、ありがとう。」 喜んでくれている新井先生に純奈から休み時間に話していた事が決行された。 「先生ー、最後だし質問タイムいいですか?」 「え?いいのかな?」 自分の判断で決められない新井先生に顧問が「最後だしちょっとぐらいいいんじゃないか?」とフォローしてくれて少しの時間がもらえた。許可がもらえて早々に純奈が問題の質問をした。 「先生は彼女いますか?」 「彼女はいません、俺より川端先生の方が大学でもモテてます。」 「それじゃどんなタイプが好きですか?」 「タイプか、皆みたいに何事にも一生懸命に取り組んでいる人が好きです。」 純奈の質問に他の人が乗っかって質問を続けたがこれまた上手い返しで皆喜んで反応した、私は私で彼女いないと聞いてちょっと嬉しくなっていた。社交辞令の可能性もあるけど川端先生を引き合いに出されていないと言われたらそうなのかなとも思えてくる。質問が続く中で私も一つ質問した。 「新井先生は実習してて何が一番嬉しかったですか?」 「嬉しかったか、部活とか授業で分かりやすいって言われた事かな。先生に成れる自信になりました。」 質問した私の目を見て丁寧に答えてくれる新井先生は真っ直ぐで先生に向いてる人柄なんだなと感じた、それと同時にやっぱり新井先生の事が好きなんだなって自覚もした。純奈に半ば強引に言われていた告白の話だったけどやっぱり好きなことは言っておきたいと気持ちがくすぶってくる。そんな私の気持ちを見透かしたかの様に部活の帰りに声をかけてきた純奈が「私がお膳立てしてあげるから任せて。」と含みのある笑顔で言ってきた。 その笑顔が少し不安だったけど、あと二日の時間では自分でどうこう出来る自信がなかったので素直に「お願い。」と言っておいた。先生の実習期間と一緒に私の恋も終わるのかなと、やっぱり悲観から入ってしまう私の思考は中々直らないみたい。 純奈のお膳立ては迅速というか、早過ぎてお願いしたこちらが動揺するくらいだった。 「今日のお昼休みに新井先生体育館のステージ裏に呼び出してあるから。」 「えっ!?噓でしょ?」 「ホントだよ、さっきアルコールの補充で職員室行った時に会ったから。」 当然のように言わたけど頭は追いついてない、だって今は朝練が始まったばっかり時間で言えば朝の七時半過ぎ。朝に弱い私は部活動が始まってるといえどもまだしっかりと頭が働いてる訳ではないから余計に純奈の報告は信じられない内容だった。 「ホントって、しかも今日のお昼?」 「うん、放課後じゃ時間取りづらいだろうし無難にお昼。頑張ってよ!」 ただでさえ練習どころじゃないのに励ましの言葉など入ってくるはずもなく、どうしよう何て言おう、で頭が一杯だった。 朝練が終わってもどうやって気持ちを伝えたらいいのかと悩んでいた、そしてそれから不安と恐怖が渦巻いて気持ちを落としていった。どうやってもフラれる前提から抜け出せずに緊張が高まるのと同じにして時間も過ぎていった。 キーンコーンカーンコーン 「それじゃ授業終わり、ここまでテスト範囲なの忘れないように。」 四時限目の終わりのチャイムがなって英語の先生が皆に声をかけてるけど今は聞いていられない、もう一杯いっぱいですぐにでも体育館に行きたいと気持ちが焦っていて落ち着かない。呼び出しておいて待たせるなんて失礼になるし、実習が終わり間近で先生も時間ないだろうから早く行かないと。教室を出る前に純奈の席の所に行って気合いを入れるためにも報告していく。 「行ってくる。」 「友香なら大丈夫。何かあったらすぐ帰っておいで。」 緊張する私にガッツポーズで送り出してくれた純奈、ハードなお膳立てをした本人の純奈はワクワクしてる感じで大丈夫と言ってくれた事に少しだけ気が緩んだ。教室を出てから体育館までは緊張で脈がうるさくてそれがまた不安を煽っている、体育館前に着いて扉の前に立って深呼吸をする。 「ふう。」大丈夫、ここまで来たら言うしかない、もしダメでもこの後会うこともないから傷は少なくて済む。意を決して体育館の扉を開けて中に入る、中はシーンとして物音はなく誰もいない感じだった、まだ新井先生がいない事にとりあえずホッとしてステージに向かう。待ち合わせの場所はステージ裏、純奈が人目につきづらい所を選んでくれたのは充分分かった。ステージに上がって幕の掛かっている裏に入って行くと人影が見えた、ステージ裏と行っても昼間は明るくてその人物はすぐに分かった。 「新井先生?」 「あ、久住さん?呼び出したのって久住さんだったの?」 「はい、すみません。忙しいのに呼び出したりして。」 「大丈夫だよ、もう実習のレポートも終わってるから。」 そっか、本当に実習終わっちゃうんだな。事実を受け止めるとついしんみりしてしまう、そんな私に「どうしたの?」と分かりやすく顔に出てる新井先生。たぶんこんな所に呼び出して察しはついてるだろうにちゃんと来てくれたし、今も何も言わない私を急かす事もしないで待ってくれている。改めて優しいひとだなと実感してた、上手く言葉に出来るか分からなかったけど言おうと決めた。 「あの、私新井先生の事が好きなんです。ちょっとしかいなかったのにとか思われるかもしれませんけど、ホントに好きなのでもし良かったら付き合ってください。」 言ってる最中かなり目泳いでたけど最後はしっかりと目見て言えた。当たって砕けろ状態だけどそれでも良かった、言われた新井先生はちょっと困った感じでいたけどちゃんと返事はしてくれた。 「ありがとう久住さん、でもそれは一時の憧れみたいな感じだと思うし久住さんだったらもっといい人これから出会うと思うよ。」 「それは、私の事タイプじゃないってことですか?」 「そんな事ないよ、ただ憧れと恋心がごちゃ混ぜになる人もいるのは多いから。」 「ならそんなこと言わないでください、私は真剣なのに真剣じゃないみたいで・・・。」 気持ちが受け止めて貰えないより軽い気持ちに見られているみたいでそっちの方が辛かった、不安だけどそれでも頑張って告白したのにそんな風に見られたくない。しばらくの沈黙の後に新井先生は謝罪をしてきた。 「ごめん、そうじゃなくて。・・・久住さんはたぶん先生としての俺に好意があるんだと思うんだ。」 「先生としてって、どういう事です?」 「素の俺はたぶん嫌いだと思うよ、先生って事で多少皆の前で頑張ってた部分はあるから。」 「そんなの知らなきゃ分からないですし、新井先生は生徒皆に対してもちゃんと同等に接してくれてる優しい人ですからそんな酷い人じゃないと思います。」 私が言うとまた困った様に口元を触っている新井先生、困らせてるのは分かってるけどここまで来てもう引けない自分もいる。そしたら小さく笑った新井先生はそのまま話し始めた。 「酷い人じゃない?俺が?」 「はい、私とか皆に優しく丁寧にしてくれましたから。」 「確かに世間一般でよく言うDVしたりお金貢がせてたりって事はないと思う。そこはむしろ逆かな。」 「逆?」 今まで見てきた新井先生とちょっと違って疑問符だらけになっている私にグッと近づいて来た新井先生、距離は一気に縮まって私の真ん前まで来て至近距離で顔を覗き込まれた。 後少しでキスできるぐらいの距離に期待と緊張で固まっている私に新井先生は驚きの言葉を言ってきた。 「短い髪にクリっとした大きい目と少し垂れ目な所、凄い好きだよ。」 「え?好き?」 「うん、久住さんってスレンダーでバレーやってるのに細身で凄い美脚じゃん。そんな大人っぽい体型なのに顔は童顔で俺のタイプそのもの。」 「それじゃ付き合 「その脚で俺の事踏みつけてくれる?」 私の言葉を遮って言われた言葉に意味が分からなかった、今踏みつけてって言ってたよね?それって私に踏んでって言ってるってことだよね?理解出来てない私の目の前の新井先生は熱っぽい感じの目でじっとり見る一人の男性の顔をしていて、マスクをしていても目元だけで分かるほどだった。 「今踏んでって?」 「言ったよ、久住さんのその美しい脚に踏みつけられるなら堪らなく興奮するよ。」 「何でそんなこと?」 「それは俺がMだから、多分ドMって言われてもいいくらいのマゾヒズトだよ。その女性らしくて細くて引き締まった脚に踏みつけられる事は、男しての屈辱であり俺としての快楽なんだ。」 不審がる私を見て新井先生はちょっと距離を空けて一息入れると私の質問に丁寧に答えてくれた、それは授業の時みたいに分かりやすく丁寧に。 ただ今はその丁寧な説明は辞めて欲しいと思ってしまう内容だったので受け止めてきれずに困っていた、まず生きてきてこう言ったアブノーマルの人種に会ったことがない私は未知との遭遇で衝撃的過ぎた。ニュースなどでDVで取り上げているのは男の人が女の人を殴ったりして捕まった事ばかりで、何より自ら望んで踏まれたいなど望む人がいる事が信じられなかった。 困り果てている私に新井先生は優しくまた一つ教えてくれた、それもまた丁寧に。 「更に言うと俺はロリコンなんだ、ロリータコンプレックス。幼い女の子が俺の好きな好み。」 「ロリ、コン?」 「簡潔に言えばロリコンでドM、だからに大人な身体つきなのに顔は童顔で幼く見える久住さんは俺にとっては理想の人そのものなんだ。付き合ってなんて言われたら二つ返事で良いよって言う。」 私は告白した事を少し後悔した、まさかこんなド変態な先生だ何て知らなったし褒められてるのは完全容姿だから先生の目当ては私の身体。それでも後悔が少しだったのは単純に告白の返事がOKで嬉しかった事と、先生の性癖がぶっ飛び過ぎていて私の思考では考え及ばない内容過ぎてもはや理解してなかったからだと思う。 「でもさっきも言った通り久住さんが付き合いたかった新井先生じゃないからそこは久住さんの意見を尊重する、それにまだこれから素敵な出会いもあるだろうから。」 「いえ、付き合います。」 「付き合うって、俺の話ちゃんと分かってる?踏んで欲しいとか脚舐めさせてとかそんなお願い沢山する事になるんだよ?」 「な、舐めたいんですか?!」 明後日の方向から出てきた新しい性癖に声を大きくしてしまった、展開から考えれば足先から付根まで隅々まで舐められそうなのを想像してしまいゾクリと鳥肌が立った。 たぶん新井先生の変態な所はまだ沢山あるんだろう、それ全部要求されて私はそれを全部やらなきゃいけないってことになるの?まだ見ぬ変態事情に性の経験がない私は何をどうしたらいいのかさえ分からなくなっていて、そもそも自分の思っていた性事情自体が世間とはずれていたのかと悩んでいた。悩む私に無情にもお昼休みの終わる予鈴が広い体育館に響いた。 「お昼休み終わっちゃうか、ごめんねご飯食べる時間なくなっちゃったね。」 「あ、呼び出したの私ですから。私の方こそすみません。」 「ライン教えて貰っていい?ホントに嫌じゃなかったら連絡してくれればいいから。」 「はい・・・。」 付き合うのか答えも出せないままの告白が終わって私はステージ裏から出て体育館を後にした、スマホのラインを開けば新しく入った友達の所に新井尚史と先生の名前が入っていて嬉しいような何とも言えないモヤモヤした気持ちだった。 教室に帰って来たら心配そうにしている純奈が出迎えてくれた。 「大丈夫だった?全然帰って来ないからどっかで泣いてんのかと思ってたんだから。」 「ごめん話し長くなって。泣いたりしてないから大丈夫だよ。」 「長くなるほどって、、やっぱり何かあった?」 「ないよ、そのー告白は一旦保留ってことになったから。」 「え、保留?保留ってどういう事?」 「お互い一旦ちゃんと考えて、それからもう一度話そうって。」 「ほー、何か新井先生らしいね。めっちゃ真面目。」 「また進展あったら話すね。」 「はいよ、次移動授業だから早く行こう。」 純奈への誤魔化しが通じてとりあえず心を落ち着ける事が出来た、保留みたいな状態なのは事実だし落ち着いて考えるのも事実。保留した理由についてはもちろん言えない。誤魔化したのは深く聞かれたら話せないが故に困るのは目に見えている、それを避けるためにもここは穏便に済ませておかなくてはいけないと言う直感だった。 その日様々な事実を知って疲れ果てた友香は家に着くなりベッドに倒れ込んだ、体力よりも精神的な疲労が凄まじく頭が働かないとはこういう事なのかとベッドでため息を漏らしていた。 「今日は色々話してごめんね、無理ならそれでいいからね。」 帰りの電車の中で届いた新井先生からのメッセージには返事をする事なく既読スルーになってしまっている。もちろん先生が好きな気持ちはある、アブノーマルを言われてから一度はそれでもいいと気持ちを固めた訳だ。でも自分の考えの及ばない世界が広がっているのを少し知って怖くもなった。分からないと言う事だけで恐怖心は少なからず出てくるものだし先生自身の人間性に疑問を持ったのも事実あるしもし付き合うことになれば私は変態の仲間入りする、それがどうしても受け入れられなかった。数時間や一日やそこらで出せる答えではなさそうと思って悩んだ末に「少しだけ考えさしてください、また連絡します。」と返信を送った。 考える前に知らなきゃいけない事も沢山あるなと目をつぶって整理しようとしていたら疲れ果てたせいか程なくして着替える事もしないでそのまま眠りに落ちてしまった。
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