碧に馴染む

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 私には、繰り返し見る夢がある。  初めて見たのがいつなのか、もう覚えていない。目が覚めた時には夢の内容なんて大概覚えてなどいないものなのだから、始まりが(おぼろ)げなのも仕方ないだろう。  でも、私が子供の時分からだったので、かれこれ10年は経っていると思う。  その夢というのは、悪夢である。といっても、殺人鬼が襲ってきたり、怪物に食べられたりするわけではない。他人にこんな悪夢を見ていると話したら、そんなものが怖いのかと拍子抜けされ、笑われることだろう。  何のことはない。水の底へ沈む夢なのだから。  真っ暗な水の中を、眠っている私がゆっくりと沈んでいく。そんな夢。私は目を閉じているけれど、皮膚の感触で今いるのが水中なのだと知っている。全身が、ひんやりと冷たい。光はない。きっと目蓋(まぶた)を開けたとしても、瞳に映るのは闇だけだ。  光の差さない暗い水の中を、ただ沈むだけの夢。  だが、私はこの夢が、堪らなく怖かった。  悪夢とは、抑圧された願望なのだと聞いた。本人でさえ、いや本人だからこそ知らない欲求が、夢という形で現れるのだ。ならば、この夢にはどんな意味があるのだろう。繰り返し見てしまうということは、何かしらの意味があるのではないか、と考えてしまう。  私には死への願望でもあるのだろうか。  溺死への憧憬(どうけい)が、こんな夢を見せるのだろうか。  私は、死にたいのだろうか。
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