碧に馴染む

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「そういえばさ」  母から頼まれていた洗濯物を取り込み畳んでいると、着替えた智香が話しかけてきた。智香は居間の椅子(いす)に腰掛け、麦茶を一口飲む。 「帰ってくる途中で(かなめ)くんに会ったんだけど」  要くんというのは、近所に住む小学生の男の子だ。要くんのお母さんとうちの母親の仲が良くて、彼も連れられてよく家に遊びに来ている。智香が実家を出る前からの付き合いなので、彼女も要くんのことは知っている。 「お化けが出るんだって」  唐突な単語に、私は目を(またた)く。智香は意地の悪い笑みを浮かべていた。ははん、と私は得心がいく。 「智香、私を怖がらせようとしてるでしょ。その手には乗らないんだから」  昔からこうなのだ。事あるごとに妹は私を脅かしてくる。なんて可愛くない妹だろう。しかも、自分で振っておいて怖いからトイレに付き添って欲しいとか言うのだ。  私のセリフにそんなんじゃないってえ、と智香はにこやかな表情を浮かべる。胡散臭(うさんくさ)い。 「いやさ。要くんの学校でね、流行ってる噂があって……」 「あーあー! 聞かない! 聞かないからね!」  おもむろに語り出したセリフを、慌てて遮る。耳を塞いで騒ぐ私に、智香は声を上げて笑った。 「あははは! そんなに怖くないよ。小学生の怪談なんだから。もう、紗江子お姉ちゃんってば、ほんと怖がりねえ」  笑われた私はむすっとなる。どうせ、私は怖がりだ。 「なんかね、最近、噂になってるらしくて。ほら、商店街の裏手に川が流れてるじゃない?」
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