碧に馴染む

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 智香の言う川の事は私も知っていた。住宅地からさほど離れていない場所に、商店街がある。学生の頃からすでに閑散としていて、今はもうシャッター通りになってしまっている場所だ。  商店街と同じく、その裏にある川も辛気臭い所である。川とはいっているが、そんなに大きいものではない。コンクリートの堀の下を川は流れているのだが、生い茂る草に埋もれてしまっている。  一見しただけでは、ただ草が生えているようにしか見えない。そんな塩梅だから、川遊びをすることもできないし、釣りを楽しむこともできなかった。 「あるけど……」  警戒心を露わに言うと、それがさあと智香は続けた。 「要くんが友達から聞いた話なんだって。まあ、その友達も又聞きらしいんだけど。なんでも、お化けに行き遭ったっていう子がいてね。あの川の向こうにある団地の子らしいよ。その子が通っている塾が、商店街の外れにあったのね。それで、週に何回かはあの川を渡らなくちゃいけなかったの」  智香がコップを揺らすと、中の氷がカラコロと涼しい音を立てる。 「で、あの辺って全く人通りがないじゃない? あんまり通りたくないんだけど、あの川を渡るのが塾に行くのに近いのね。それで、嫌だなあと思いつつ通っていたの。あの川って何だか(よど)んでて、薄気味が悪いでしょ。だから、強いて見ないようにして、いつも足早に橋を通ったの。その日は曇っていて薄暗かったから、余計に不気味で。橋の先だけを見るようにして、足を動かした。でも、ずっと川を意識していた。だからね、微かに耳に入ってきた声にも、すぐに気付くことができたの」 「声?」  思わず聞き返すと、赤ん坊の泣き声がしたんだってーーと智香は言った。
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