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智香は声を潜める。私が聞き逃すまいと固唾を呑んだ瞬間、ギイアギイアッと大声を出した。
突然のことに私は情けない悲鳴を出してしまう。それを聞いた智香がケタケタと笑った。
「紗江子お姉ちゃんったら、びびりすぎ!」
笑い転げる智香を呆然と眺めた後、謀られたことにやっと気付く。また、してやられてしまったのだ。
「ひっどい! まさか全部ウソなの?」
腹を抱えている憎たらしい妹に食ってかかる。ほんとに意地が悪い。要くんの名前まで使って。自分だって社会人なんだから、こんな子供染みた悪戯は卒業した方がいいんじゃないの。
睨み付けると、目尻に浮かんだ涙を拭いながら智香が謝る。
「ごめん、ごめん。要くんからこの話を聞いたのはホント。でも、お化けなんかじゃないわよ」
「じゃあ何だって言うのよ」
「そんなに怒らないでよお。ほら、鳥の鳴き声って、赤ん坊の声に似てるじゃない? きっと、それと聞き間違えたのよ」
「ええー? 似てるー?」
「雀とかはチュンチュンだけど、カラスはギャアギャアって感じじゃない。ああいう大型の鳥がいたんじゃないかな」
智香に諭されて、そうだったかなと記憶を辿る。夕方の電信柱にたむろしているカラスは、確かにそんな鳴き声だった気がした。妙に甲高くて、しゃがれた声だった。聞きようによっては、赤子の泣き声に似てなくもない。
そっか、そうだよね。
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