碧に馴染む

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 やっと胸を撫で下ろした時、ガラス戸が開けられた。 「あら、智香。帰ってたの」  明るい声を出したのは、買い物袋を持った母である。両手のビニール袋をテーブルに置き、妹に向き直った。 「連絡くれれば迎えに行ったのに。まさか、歩いて来たんじゃないわよね」  智香も笑みを浮かべて応じる。 「駅から家まで、そんなに距離ないもん」 「ダメよ、そんな! 今日の気温が何度だと思ってるの。熱中症にでもなったらどうするのよ」  母は口に手を当て顔色を悪くする。  確かに今日は記録的な猛暑日だと、ニュースで流れていた。とはいえ、智香の言う通り駅から歩いて15分かそこらである。そもそも、学生の頃は駅から通学していたのだから、今更な心配であった。これしきの距離で倒れていたなら、何年も前にとっくに病院搬送されていただろう。 「お母さんってば過保護ー」 「何言ってるのよ」  私が軽口を叩くと、母に睨まれてしまった。 「なんて薄情な姉かしら。もっと妹を心配したらどうなの」  母のお冠に私は肩をすくめた。まあ、母の過保護も分からなくもない。妹は今でこそ元気だが、幼い頃は病弱だったのだ。ちょっとしたことですぐに熱を出して、その度に両親を青ざめさせた。だから現在でも、母は妹のこととなると神経過敏となる。 「まあまあ」  こめかみをひくつかせる母を、智香がなだめる。 「そんなことより、お土産があるのよ。今持ってくるね!」  言うが早いか、智香は居間を出て行ってしまった。母は嘆息し、放置していた買い物袋の中身をしまい始める。  私はちょっと居心地が悪くなり、途中となっていた洗濯物をたたむことにした。
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