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わずか10秒という短い時間ではあるが最後に彼女と会えたらと、僕は初めて彼女が所属するグループのCDを買い、握手会に参加することを決心した。
ほかのどのメンバーよりも長いこの列には、きっと僕みたいな人間が何人もいるんだろう。
待ち時間の間、僕の頭の中では、これまでの彼女の思い出が取り留めもなく駆け巡っていた。
笑い顔も、泣き顔も、思い出の中の彼女は、どれも美しく輝いていた。
気づけば時計の長針は3周ほど回り、自分の番が近づいてきた。
限られた時間の中で何を伝えたらよいのだろう。
僕の中で色々な思いが湧き上がり、渦巻いていたが、どれだけ考えてもそれらをうまく言葉にできなかった。
「次の方どうぞ。」
運命の時の到来を告げる声が僕の前で響いた。
何の準備もできないまま、僕は彼女が待つ場所へと足を踏み入れた。
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