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第7の冒険 対決! 赤芝紅華! 七海君 最後の冒険 最終回
頭部のケガの応急処置をしてもらった僕は、赤芝紅華が落ちたであろう地点の付近をうろうろしていた。
上を見上げる。
そうだ、ちょうどあのあたりで赤芝は、僕の手を振り払って、落下した。
改めて落下地点付近を見回した。街灯などが、あちらこちらにあり、結構明るい場所だった。
おかしいよな。
ビルの上から赤芝の腕を持っているときは下は真っ暗だった。
その闇の中に彼女は、落ちて行ったのだから。
あ、そうだ赤芝紅華は、世界的イリュージョニスト神無月アサヒの娘だよな。ということは、これは、あいつお得意のトリックか。
僕が、不審げな顔をしていたためか伊座薙教授が声を掛けて来た。
「逃げられたな。イリュージョンのトリックを使ったんだろう」
「しかし、地面に赤芝がドサッとおちる音がきこえました。落ちたのは確かです」
「おそらく、スタント用のエアバッグを使ったんだろう。
スタント用のエアバッグだとあそこから落ちても、十分衝撃を緩和して無傷で着地できる。
このあたりの電灯を消して、真っ暗にし、黒のエアバッグを使ったとしたら」
「そうか、あのドサッという音は、エアバッグの上に落ちた音か。その後、助手を使って迅速にエアバッグを片付けたってわけですね」
「そういうことだろう。サイコパスは、恐怖や不安を感じないから勇猛果敢で大胆だ。あそこから飛び降りるなんぞなんともおもわんだろ」
「また、逃げられたのか……ん? あっ! しまった! 」
「どうした。七海君」
「先生、あいつに、赤芝に、種の入った封筒を取られてしまいました。あいつは処分するなどと言っていましたが、そんなことするわけない。また悪さをすると思います。今回以上の何かを」
「ああ、あれか。心配しないでいいよ七海君。あの封筒の中の種は普通のタンポポの種だ」
「え? 」
「不倫タンポポの種なんかじゃないんだ」
頭部を金属バットで殴られてまで守ろうとしたのは、普通のタンポポの種だったってこと?
「赤芝紅華は、息をするように嘘をつくが、逆に彼女は、僕らがまさか嘘をつくとは思っていないのだ。
ましてや信頼厚い七海君が持ってきたものだ。君が嘘をつくとは全く思っていないはずだよ。
だから、自分が騙されたのがわかったら逆切れしてしまう。
その心配があったんで、君にもあれが偽物であることは伏せていたんだが。
違う理由で激高するとは思わなかった。
彼女が激高したらすごかっただろう」
「はい。殺されるかと思いました。いや、金属バットの当たり所が悪かったら死んでたかもせれません」
「うむ。まさか彼女があそこまでするとは、思わなかった。君を危険な目に合わせてしまって申し訳ない」
「いやもういいんです。それより赤芝があの種が偽物だったと知ったら、また激高して、何かやらかすんじゃないでしょうか? 」
「わからんね。その時は、また七海君にご登場願おう」
伊座薙教授は、大浦先生のようにとぼけて言った。
あの事件から1週間がたった。
赤芝紅華の行方は杳として知れないままだった。
天ノ使美加が『天使占い』をした結果によると、国外にいると言う結果が出たそうだ。
まあ、占いだからな。何とでもいえるけど。
ただ、伊座薙教授の話によると、神在月ユウナさんが最近、神無月アサヒの近くにいる赤芝紅華を見た、とのことだった。親父さんの後でも継ぐのかな。
人を驚かすのが好きな赤芝紅華にとってはイリュージョニストは最高の職業かもしれない。できたら、観客を驚かすだけで、もう悪さはしないでほしいよ。
そして、僕は3年生になった。
そろそろ理科学部も引退の時期かな……。
理科学部での研究は日向美沙が引き継いでくれる。
次は、卒業後の進路か……。
ふと気が付くと、僕は理科室のドアの前に立っていた。
そして、今は放課後。
僕を巻き込むあのシュールな事件の数々は、いつもここから始まったんだよな。
つい、聞き耳を立てる癖ができてしまった。
僕は、理科室内の様子をうかがった。何か議論する声が聞こえるが……。
思い切って理科室のドアを開けた。僕の姿を見て大浦先生がすがるように言った。
「七海君! いいところに来てくれた。ちょっとこの子の話を聞いてあげてくれないか? 」
助けて! 七海君! 七海航平のシュールな七つの冒険 おわり
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