第1の冒険 文鳥の卵はなぜ孵らない?

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 明里ちゃんは、シロに話しかけた。シロは、チュンチュンと鳴いていた。 「シロちゃんもそう言っている。お兄ちゃんはいい人だって」 「え? 明里ちゃんは、シロちゃんの言うことが分かるの?」 「わかるよ。だっていつもお話してるもの。シロちゃんのお婿さんを連れ来てきてくれたって言ってるよ」  マロのことだ。ということはシロは計画的に事を運んだんだな。 「明里ちゃんは、足の病気だってシロちゃんに聞いたんだけど大丈夫かい? 」 「うん。大きなこぶができちゃってるの。手術をすればすぐ直るって言われてるけど……私、その手術が怖くって。病院に行きたくないの」 「でも、手術をすればすぐに治るし歩いたり走ったり、もっとシロちゃんとも遊べるんだけどなあ。シロちゃんもそう言ってるよ」 「うん。わかってる。でも……」 「そうだ、シロちゃんのお婿さんを紹介するよ」  そう言い残して僕はリビングに置いていたマロのゲージを取って来た。 それを見た明里ちゃんの顔が輝いた。 「わあ、シロちゃんのお婿さん? 名前は何て言うの?」 「マロちゃんだよ」 「シロちゃんもきれいだけど、この子もきれいだわ。あ、目が赤いよ。すごい。シロちゃんこの子イケメンだよ」  マロは、例の鳴き声で鳴いて見せた。 「キューン、キューン、キューンポン」 「まあ! 変わった鳴き声。でも可愛い」  シロがマロのゲージの所に飛んできた。 「明里ちゃん、シロちゃんのお婿さんも来たことだし、もう少し待ったら雛が孵るよ。  そうしたら、みんなが明里ちゃんを応援してくれるよ。  『大丈夫、明里ちゃん。勇気を出して』って。  それに静お姉ちゃんもきっと守ってくれるよ」 「うん。私、頑張る。手術を受ける。そしてみんなと遊ぶよ!」  僕は、静ちゃんのお母さんを見た。涙もろいのか、またハンカチを出して涙を拭いていた。    さて、ここまでは、なんとかうまくいったと思う。  後は卵入れ替え作戦だ。  相性の方はシロがマロにベタぼれだから問題はないだろう。同じゲージでつぼ巣をいれて飼育すれば受精卵は手に入ると思う。  だけど、文鳥は卵の数が分かり6個ぐらい産んだらもう産まなくなる。    いま現に無精卵が6個ある。これ以上は産まなくなる可能性もあるわけだ。    後は、シロが化けた静さんが言った『案心して卵を産んでねってシロちゃんに言い含めて置くわ』てことを信じるしかないな。  後は1日1個無精卵を取り出さなきゃならないけど、静さんのお母さんは卵を割っちゃいけないと極度に恐れていて、卵に触れないそうなのだ。だから結局はぼくが放課後、静さんの家に行って無精卵を取り出すことになった。  静さん、シロ、君たちの計画通りに事は進んでるよ。  あとは、明里ちゃんだね。明里ちゃんもきっと勇気を出して手術をしてくれるよ。  あまりにも非現実的な出来事だった。僕は、このシュールな出来事を記録しておくことにした。文具屋に行ってハードカバーのノートを買った。  その時の僕には、このノートに書かれるシュールな出来事が増えるとは夢にも思わなかったし、思いたくもなかった。  最後にノートに、事の顛末を記録しておこう。  池田家では、静さんが亡くなった後、お母さんがかなりショックで、生きる希望も無くなるほどだったそうだ。明里ちゃんも学校に行けず。みんな毎日泣いていたと、静さんのお母さんは言っていた。  そんな時でもシロを見ているときだけは心が軽くなったそうだ。ある日、静さんのお母さんは、冗談交じりに、シロに何とかしてほしいと話しかけた。その願いにシロが応えたってわけだ。  そして僕を巻き込んで、正に非現実な出来事が起こった。  学校の理科室で、僕と静さんが居るところを見かけた2人の女子生徒も、静さんが服を脱いでいたことを含めて何かを見間違えたと言うことで片が付いた。  シロの方はと言うと、なんと、マロが池田家に来た翌日から卵が産まれ、卵入れ替え作戦が発動した。  作戦は見事成功して六個とも無事入れ替えることができた。  シロとマロが交代で、かいがいしく卵を温め、今度は17日経って、卵が孵り、1日1日と家族が増えて行った。  明里ちゃんも静さんのお母さんも大喜びなのは言うまでもない。  明里ちゃんの手術も無事成功した。今では、学校で友だちに文鳥自慢をしている。  卵はめでたく6個とも孵った  オスが3羽メスが3羽だった。明里ちゃんがさっそっく名前を付けた。    オスのシルバー文鳥はサク  オスのイノ文鳥はフク  オスの桜文鳥はココ  メスのアルビノ文鳥はスク  メスのシナモン文鳥はモン  と名付けた。  あとの1羽というと、明里ちゃんの計らいで僕が(ゆず)り受けた。  僕は、何とか手乗り文鳥に育てたいため、平日は学校にゲージを持って行き世話をした。  定期的な給餌については、理科学部の研究の為と言うことで、怪しまれることもなくできるのだ。  毎日餌を与えていると愛着と言うものもわいてくる。というか可愛くなってくる。  いつしか給餌の時間を心待ちにするようになった。これはもうペットじゃないな。愛玩動物じゃない。  僕にとって人生のパートナーと言えるかもしれない。    そうそう、僕が(ゆず)り受けた文鳥は、メスのハク文鳥で、  名前は、『静さん』にした。 第一の冒険 文鳥の卵はなぜ孵らない?   おわり
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